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10 2011年10月
みなさま、こんにちは。
関東地方、本日は爽やかな秋晴れです。
連休なので、行楽地にお出かけの方も多いのではないでしょうか。
さて、今日は『姫の男/王女の男』に出てくる漢文の詞について書いてみようと思います。
最終回のラストシーンをナレーションで印象的に締めくくった「情とは」の一節です。
このシーン、韓国語のセリフはこのようになっています。(ハングルが出なかったらごめんなさい。パソコンからアクセスしてみてくださいませ)
정이란 대체 무엇이냐 세상을 향해 묻습니다.
나는 대답할 것입니다.
우리로 하여금 아무런 망설임도 없이 삶과 죽음을 서로 허락하는 것.
그것이 바로 정이라고.
私はこの部分を前回の記事でこう訳しました。
情とは何ぞやと、この世に問います。
吾は答えます。
我々をして、何事にも戸惑うことなく、生と死を互いに許しあうこと。
これぞまさしく情であると。
この詞は7話でも出てきましたよね。セリョンとスンユが岩場で過ごしながら。
原典は元好問(1190年生-1257年没)という金朝の高名な詩人が1205年に書いた『雁丘詞』で、『邁陂塘』という元好問の詩集に収められたものだそうです。ドラマではここから冒頭部分を引用したのですね。
『雁丘詞』
問世間 情是何物 直教生死相許
天南地北 双飛客 老翅幾回寒暑
歓楽趣 離別苦 就中更有痴児女
君応有言 渺萬里層雲 千山暮雪 隻影向誰去
橫汾路 寂寞當年蕭鼓 荒煙依舊平楚
招魂楚些何磋及 山鬼自啼風雨
天也妬 未信與 鶯兒燕子俱黄土
千秋萬古 爲留待騷人 狂歌痛飮 来訪雁丘處
この詞にはこんなエピソードが残されているそうです。
科挙の試験を受けに行く途中、雁を狩っていた男に偶然出会った元好問は、男から「つがいの雁を捕らえたのだが、一羽は逃げ、一羽だけが捕まって死んだ。ところがかろうじて逃れた雁は遠くへ逃げようともせず、悲しく鳴きながらいつまでも死んだ雁の傍を廻旋し続けている。ついには地面に頭を叩きつけて自ら死んでしまった」との話を聞きます。
元好問はいたく感動し、つがいの雁の死骸を水辺に埋め、石を置いて塚にしました。雁の墓との意味で「雁丘」と名付け、のちに自らの詩集に『雁丘詞』と名付けた詞を残したそうです。
ドラマの中では、恋愛の歌として完結させる形で引用していますが、「情とは果たして何物であるが故に、互いの生死を委ね運命を共にさせるのだろうかと、私は問いたい」といったニュアンスでしょうか。
詩集『邁陂塘』が実際に朝鮮半島に紹介された時期までは把握しておりませんが、約二百年前に名声を轟かしていた金朝の詩人がこの時代の朝鮮王朝でも知られていたという設定だと思います。
この詞は1959年に当時香港在住の作家・金庸が発表した武侠小説『神雕侠侶(しんちょうきょうりょ)』の中で取り上げられたことで有名になったそうです。金朝が滅びたあと、売国奴の息子として過酷な運命を背負った少年・楊過が美しき年上の師匠・小龍女と出会い、禁断の恋に落ちながら「神雕大侠」と呼ばれる伝説の英雄となるまでを描いた武侠小説だそうですが、その後2006年に中国でドラマ化された時もドラマの重要なモチーフとしてこの詞が主要な登場人物(李莫愁)により諳んじられています。
中国ドラマ『神雕侠侶』をご覧になった方なら、「情とは」の一説を聞いてすぐお分かりになったことでしょう。なにしろ原作小説の人気もさることながら、中華圏13億人が熱狂したドラマだそうですので。
陶淵明や杜甫の詩に造詣が深く、その名声が南宋にまで轟き渡っていたという元好問。
金が元によって滅ぼされた当時、金の官吏だった元好問は、その類まれな才能を買われ元の官吏にと請われますが、滅びた金への思いからこれを固辞し、生涯を文人として送ったそうです。
さて、7話の中でスンユが詠んだ詞にも触れてみます。
韓国語でのセリフは、こうなっていました。
내 마음을 바꾸어 그대 마음이 되고 보니 비로소 서로 그리워함이 이리 깊었음을 알겠다.
ドラマのセリフに沿うと「私の心をあなたの心に変えてみて、はじめて互いに想い合う気持ちがこれほど深かったのだと分かった」といった訳になるでしょうか。
こちらは蜀の詞人・顧夐(こけい)の『訴衷情』という詞の最後の一節を引用したものです。『訴衷情』は『花問集』という晩唐五代の詞人の作品を集めた詞集に収められているそうです。
『訴衷情』
永夜抛人何處去 絶來音
香閣掩 眉斂 月將沈
爭忍不相尋、怨孤衾
換我心 為你心 始知相憶深
永き夜 私をうち捨ててどこへ行ったのでしょう
戻ってくる足音も途絶え
香しき楼閣は暗闇に包まれて眉をひそめるも
月はまさに沈み
あなたが訪れぬことが忍び難く
独り寝の夜を恨みます
私の心とあなたの心が換われば
互いの想いの深さがようやく分かるでしょう
およその意味はそんなところでしょうか。
この歌は男性である作者が女性の気持ちを歌ったものだそうです。
セリョンとスンユが「姫とお師匠様の講義ごっこ」で互いに詠みあっていた詞も、出典に触れるとまた違った味わいを感じますね。
実に高尚なごっこ遊びです。
『姫の男/王女の男』は中華圏でも親しみをもって迎えられるのではないかと想像します。
これを機に、『姫の男/王女の男』が伝えた詞の世界にも触れてみたくなりました。
では、最後に、「情とは」を諳んじる最終回の二人のシーン、動画を貼り付けておきます。
*リンク切れのため、動画を差し替えました。
you tubeのDrama KBS公式動画へのリンクは、コチラです。
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6 Responses for "『姫の男/王女の男』バックグラウンド3 漢詩"
こんばんは。早速のご回答ありがとうございました。とっても参考になりました。
『雁丘詞』と『訴衷情』については今度図書館で調べてみたいと思います。
ところで白様の『雁丘詞』についてのエピソードを読んでいて思ったのですが、韓国で結婚の時に木彫りの雁のつがいを送りますよね。それはこのエピソードと関係があるのでしょうか?
また、7話と24話を見直していて気がついたのですが、24話でスンユとセリョンの子供がヨリの膝の上で開いていた扇は、7話でスンユがセリョンに渡した扇ですよね。7話では梅と鶯の絵だけが描かれていましたが、24話では余白に『訴衷情』と『雁丘詞』の一節が書かれていました。意味深ですね。
今日OSTが届きました。白様の歌詞の和訳を参考にさせていただいて、また姫の男の世界にひたろうと思います。
また色々、ご教示下さいませ。
ゆうこさま
こんばんは。拙文をお読み頂き、ありがとうございます。
『姫の男』の中で、わざわざ『雁丘詞』を選んで詠んだのは、ゆうこさまがお察しのとおりだと思います。
雁はしばしばつがいになると添い遂げる鳥とされ、秩序だって飛ぶ習性からも、夫婦が見習うべき象徴とされているようですよね。
日本のおしどり夫婦と同じ概念だと思います。
ただ、実際の鳥の生態が相手を生涯変えないかというと、違うようですが。
古くから中国などでおしどりや雁がつがいを貫いたとされる話が多く残されてきたことから、そうした象徴とされてきたのでしょうね。
例えば宋代の「鴛鴦の契り」のエピソードなど。
ちなみに、おしどりは雁の一種ですよね。
雁はカモ目カモ課の渡り鳥の総称で、おしどり(鴛鴦)はカモ目カモ課オシドリ属ということです。
『雁丘詞』は物悲しいエピソードです。
脚本家はこの歌を詠ませることで、スンユとセリョンの想いの深さのみならず、悲恋に終わるかもしれない結末を予告していたのですよね。
あの詞を滝の岩場で詠むに至るまでに二人が経験した別離や、二人が乗り越え立ち向かうべきと想定した困難よりもはるかに大きな悲劇に見舞われることになり、本当に『雁丘詞』のようになるところだったのを思えば、『雁丘詞』のように後を追って死ぬような結末にならず、本当に良かったです。
そしてまた、ハッピーエンドな筈なのに、どこか深いところで悲しみを感じさせるところが、このドラマの真髄のような気がします。
扇の件、スンユがセリョンに渡したものだと考えると、ヨリ以外に持ってこれる者がいないので、やはりヨリが持ってきたのでしょうか?(笑)
そう考えると、いちいちが素敵ですね、このドラマ。
素敵な気づき与えてくださり、どうもありがとうございます。
私のほうこそ、ご教示くださいませ。
最近頻繁に訪問させて頂いております。いつも素晴らしいコメントと知識をありがとうございます。その教養の高さに感服しております。一方で、私たちと同じ目線でのコメントにも共感しております。
さて、私も「姫の男」には本当にハマりました。今現在も一昨日届いたばかりのostを聞きながら書いております。BGMの方でさえも聞きなれた曲ばかりで、シーンが思い浮かぶようです。
パク・シフの格好良さやムン・チェオンの可愛らしさはもちろんのこと、それ以外の俳優さん達、音楽、脚本、演出、全てが良かったと思います。韓国語も数か月前から習い始めたばかりで、ほとんど分からないのに(某サイトで数日遅れの英語のサブ付で観ておりました)、後半は翻訳が待ちきれず、映像だけ見ていても泣けました。
強いて挙げれば、終盤にかけてシンミョンの心情をもう少し丁寧に描いてくれればよかったのになと思いました。チョンジョンもスンユもお相手がいるのに、いつも一人ぼっちで自分の選択について苦しむ彼がかわいそうでした。いつも同じギターの曲が流れ、最後の方にはおなじみすぎて滑稽でさえありました。サントラにはこの曲は入っておりませんでしたね。スヤンの心情や悪人ぶりでさえも時間の関係で描ききれなかったらしいので、シンミョンについてまでは到底無理ですよね。
韓国についてもっと知りたくなりました。これからも閲覧させて頂きます。パク・シフの今後の活躍が楽しみです。
さとみさま
はじめまして。大変嬉しいコメントをありがとうございます。
共感とともに読ませていただきました。
シンミョンのテーマ、OSTに入っていないのですね。なんという冷たい扱い。(笑)
私もあのギターが聞こえると「シンミョン、くる!」と脳が構えるようになっておりました。
確かにシンミョンはいつも一人激して悩み、最後ガックリくるパターンで終わっていましたよね。
シンミョンの心情描写は確かに足りなかったと感じます。
相手がいないなら、部下との関係で心情描写をもう少し掘り下げて描く方法もあったかなと思いました。
もう少しゆとりを持って制作に当たれれば、スヤンやシンミョン、李施愛の乱なども背景を丁寧に描けたと思うので、仰るとおり、惜しいところですよね。
24回という回数では本作で扱うべきテーマが収まりきらず、それを調整する時間的ゆとりもなかったのだろうなと思います。
「終盤の主役二人のラブシーンを減らしてでも周辺人物の描き方により厚みを持たせ、もう少し史実に沿ってしっかり描けば大傑作ドラマになったかもしれないのに、惜しい」と書いている韓国の方の文を読んだりして、納得する部分もあります。
とはいえ、私はそんな冷静な目で見ている余裕はありませんでしたが。
制作側は「時代劇ラブロマンス」を描くつもりでいるのに、いつの間にか観る側がどんどん壮大な大河ドラマを求め始めたという感じでしょうか。
もっともっと物語りに入り込んでいきたい、もっとスケール大きく観たいと思わせる力が役者や作品テーマにあるのでしょうね。
話し始めるといくらでも話せてしまいます。(笑)
コメントありがとうございました。どうぞまた一緒に楽しんでくださいませ。
こんにちは、再びけいこです。
ご丁寧なコメントバックだけでなく、私のブログものぞいていただいたようで
대단히 감사합니다.
さて、ドラマが終わって「萌え」尽きたと思っていましたが、
こちらにお邪魔して、改めてストーリーのバックグラウンドを知り
史実と創作、それに各種の要素がうまく混ざって
本当に奥深いドラマであり、まだまだ萌え要素(笑)は有るのだと
再確認しているところです^^
ドラマ本も注文しましたので、本が届いたら
文字でもう一度感動を再体験したいと思っています。
けいこさま
こんにちは。コメントをありがとうございます。
本を注文されたのですね。
活字で読むと、また違った感慨や感動がありますよね。
『姫の男』、なにやらコミック本もあるそうですね。
漫画かと思いきや画像に吹きだしをつけたもので、かなりコミカルな印象でした。
深刻な場面も必要以上に漫画チックな仕上がりになっているのではないかと思いつつ、ちょっと見てみたい気がしなくもありません。(笑)
私もまだまだ余韻に浸っております。
秋の夜長、けいこさまもどうぞ素敵な時間をお過ごしくださいませ♪
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