みなさま、こんにちは。

韓国は旧正月連休に入りましたね。
私も今年2度目のトックを食べました。

さて、今日は今韓国で話題のドキュメンタリー映画“님아, 그 강을 건너지 마오/あなた、その川を渡らないで”(邦題仮)について。

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この映画は89歳のおばあさんと98歳のおじいさん老夫婦の愛にあふれた日常を描いたドキュメンタリー映画。
去年2014年11月27日に封切りになったのですが、クチコミで観客を増やし、現在までにドキュメンタリー映画としては驚異的な479万人を動員しています。

この映画が観客動員記録を塗り替えるたびに、韓国では『牛の鈴音』に比較されてきたのですが、観客動員293万人の『牛の鈴音』を去年のクリスマスに抜き、300万人を突破。

上映館はぐっと減ったものの、現在までに順調に客足を伸ばしています。

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この映画の主役であるカン・ゲヨルおばあちゃんは89歳。
98歳のチョ・ビョンマンおじいちゃんとは結婚76年目です。

どこへ行くにもおそろいの韓服(ハンボク)を着て、いかにも仲むつまじい様子のお二人。

映画のスチール写真からもその仲良しぶりが伝わってきます。

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実はこちらのおじいちゃんとおばあちゃんは、この映画に出る前からおしどり老夫婦として知られたお二人。2011年の11月にKBSの番組『人間劇場』という番組に”白髪の恋人/백발의 연인”というタイトルで特集されたことのある方々なんです。

その時番組を見ていたチン・モヨン監督が、二人の愛情深い生き様に感銘を受け、数年後、二人のドキュメンタリー映画を撮ることになったのだそう。

制作費は2億ウォンにも満たないインディペンデント映画であり、監督を含め、撮影、音楽まで全6名のスタッフで完成させたというこの映画なのですが、素朴な老夫婦の真心あふれる姿だけで十二分に観客の心をつかんだというわけですね。

現在旧正月休みの韓国では、明日19日、KBSプライムチャンネルで午後1時20分から正月特番としてかつて放送した『人間劇場』の「白髪の恋人」編を放送するそうです。

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この正月特番を見た人が、さらに劇場にも足を運び、もしかしたら500万人を達成してしまうかもしれません。これを超えるドキュメンタリー映画はなかなか現れないかもしれませんね。

今回このドキュメンタリー映画が、ドキュメンタリー映画らしからぬ観客動員数を上げているのには、作品の良さ以外にも理由があります。
実はこの映画、配給がCGVアートハウス。
CGVアートハウスはCGVの中で別途「アートハウス」と名うち、全国17箇所で大規模シネコンにかからない映画を中心にCGVアートハウス劇場で上映しているのですが、『あなた、その川を渡らないで』に関してはCGVアートハウスのみの上映にせず、一般のCGVでも上映するようにしたそうなんです。

初日のスクリーン数は186箇所。封切から2週間ほどで2倍以上の465箇所。
186箇所は特に多いとはいえない数ですが、それでもドキュメンタリー映画が最初からこれだけの数でかかるのは例のないことです。

結局、映画の興行成績には上映館数が外せないということを表していると言えそうです。どんなにいい映画でも、気軽に観られなければどうしても客足が伸びません。

そう考えると、改めて、6箇所の上映館から始まって最終的には293万人もの観客動員を導き出した“워낭소리/ウォナンソリ”、邦題『牛の鈴音』のすごさに思いが至ります。

韓国で2009年1月に、そして日本でもSIGROの配給で2009年12月に公開された『牛の鈴音』。
話題が出たついでに、こちらにも触れておきましょう。

2008年の釜山国際映画祭ではドキュメンタリー映画部門で最優秀作品に選ばれ、翌年2009年にはサンダンス国際映画祭のワールドドキュメンタリー映画コンペ部門に出品されたこの映画にも、老夫婦が登場します。
とはいえこちらは、老夫婦と老いた牛の三角関係?(笑)
40歳になる農耕牛への、無口な農家のおじいちゃんの深い愛情を追った映画です。

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『牛の鈴音/ウォナンソリ』の英語タイトルは“Old Partner”。
おじいちゃんのオールド・パートナーである牛と、いつもおじいちゃんに不満たっぷりの妻の両方にかけられたタイトルになっています。

私も『あなた、その川を渡らないで』に刺激され、また見てみたのですが、主役のおじいちゃんが既に亡くなっている今見てみると、言い知れぬ悲しみを感じます。

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映画の中でも、牛同様具合の悪いおじいちゃんだったのですが、2013年の10月に肺炎でお亡くなりになってしまいました。

SIGLOの『牛の鈴音』ページをリンクしておきますね。(コチラです)
こちらのページには予告編などもあります。

ちなみに、映画の題字『牛の鈴音』は、菅原文太さんがお書きになったそうです。
2009年12月の公開からまだ5年ちょっと経っただけなのに、菅原文太さんももういらっしゃらないかと思うと、この映画にはますます寂しい気持ちになります。
制作者の意図が見えすぎるドキュメンタリーも多い中、さほど演出的な手の入っていない(ように見える)つくりなので、荒っぽい感じも受けますが、機会があれば是非こちらも一度ご覧になってみてください。
「感動」と表現するのも違う、何かとてつもない申し訳なさを感じるような、生きる厳しさをも感じさせる、そんな映画でした。

『牛の鈴音』の貧しい農家の風景、年老いた牛とおじいちゃんの姿に比べ、着ているものも綺麗でとても明るい印象の『あなた、その川を渡らないで』。

この二つのドキュメンタリーは、人と動物、人と人と各々愛を向ける対象は異なりますが、「愛するものとの別れ」という共通するテーマで描かれています。

別れを描く映画はつらいですよね。
特に、老いによる別れは、誰しもが避けられないものなので。

『牛の鈴音/ウォナンソリ』の時も、若者が親を連れて映画を見に来たことから観客数が伸びたと言われていましたが、やはりここでも似たような傾向を見せている両者。
この『あなた、この川を渡らないで』も、300万人観客動員に至るまでのチケット予約者の年代を分析したところ、20代が42%、30代が23%と、圧倒的に若年層が購入していることが分かりました。
映画を観た20代30代が親たちにプレゼントしたり、次は親を連れて見にきたりという現象が昨年末しきりに取り上げられていたのですが、若者層ほど「永遠の愛」に憧れと感銘を受けやすい傾向を示していると言えそうです。

きっとこの映画も日本に入ってきてくれるのではないかと期待しつつ、予告編をアップします。

予告編を見ただけで、この映画全体が伝わってくるようです。

では、どうぞ。



「結婚して何年ですか?」

「75年か76年になります」

76年目、私たちは恋愛中です

「これ、なんです?」

「花ですよ」

「きれいですね」

89歳 少女の感性 カン・ゲヨルおばあちゃん

「おじいさん、わたし手が凍えちゃった」

98歳 ロマンティスト チョ・ビョンマンおじいちゃん

「愛してるよ」

永遠だとばかり思えた愛に 最後の季節が訪れます

「三ヶ月だけ生きてくださいな。
こんなふうにあと三ヶ月でも生きてくれたら、どれだけ嬉しいか」

わが運命の人は、あなたです

「おじいさんと手をつないで一緒にいけたなら、どんなにいいだろう」

あなた、その川を渡らないで

11月27日、どこにもなかった本当の愛がやってきます

予告だけでも鼻がツーンときちゃいます。

いつくしみあって暮らす人々の姿は、見るものを優しく温かな気持ちにさせてくれますね。
このドキュメンタリー映画の中のお二人は、76年もの間互いに元気に連れ添えている時点で既に奇跡のようにお幸せですが、その上愛情深い気持ちをずっと持ち続けているのですから、これ以上幸せなことはないですよね。

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自分の親にこんなふうに老いていって欲しいと願うと同時に、自分自身もこんなふうに誰かと老いていけたらと人々に夢を見させ、願わせる力のある、おじいちゃんとおばあちゃんの映画。

こういう映画が大ヒットするのは、なんだかちょっとほっとします。