みなさま、こんにちは。

2015年もとうとう残すところわずかとなりました。
今日は今年公開された韓国映画を振り返りつつ、映画の中で女性がどれだけ登場し、どのように描かれたのかについてなど、まとめてみたいと思います。

と本題に入る前に。

すみません。これ、触れずにおれません。年の瀬に降って沸いた日韓両政府による「政治妥結」。
このせいで、私の晴れ晴れとしていた年末がすっかり暗転です。
被害女性たちの声を聞きもせず、さらに苦しめているのが韓国初の女性大統領であるという事実。なんたる悪夢でしょう。もう悪魔祓いしたいわ。

・・・・・・言い出したら止まらないので、気を取り直します。

今年も様々な作品がお披露目になった韓国映画。
既に日本に入ってきたものから、日本公開はこれからというもの、日本公開はなさそうなものと色々あります。
今日は、今年公開された韓国映画が女性キャラクターをどれだけ登場させているかなどを中心に振り返ってみたいと思います。

まずは観客動員数をおさらい。

上半期は全体的に奮いませんでしたが、夏に公開された『暗殺』と『ベテラン』はそれぞれ1270万人と1341万人を記録しましたし、今年の観客動員数で目下3位につけている『内部者たち』(邦題仮)は、この年末にものすごい追い込みを見せてくれています。なんと11月19日の公開から42日目の今日12月30に700万を突破しました。
『内部者たち』の場合はR18指定となっているので、この動員数は破格と言えるでしょう。韓国ではR18指定の場合、「観客動員数マイナス200万人」と言われており、現在『内部者たち』はR18指定映画としては2001年の『チング・友よ』の810万人についで2位となっています。

「ああ、もしR18指定じゃなければ、今頃は1000万目前・・・・・・」

などと無駄なことをつい思ってしまいます。(笑)

一方、大ヒットを期待されながら、観客動員面で苦杯をなめた映画も多数。

いくつか取り上げてみましょう。

まず筆頭に挙げられるのは、3月5日に公開された『純粋の時代』(邦題仮)。

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この映画については以前もチラッと触れておりますが、イ・バンウォンによる「王子の乱」を描いたこの映画は、チャン・ヒョク、シン・ハギュン、『未生/ミセン』が生んだ新星カン・ハヌルを擁立し、大ヒットが見込まれていたものの、結果は約46万人。R18指定であることを考慮に入れても、あまりに低調なスコアと言わざるを得ない数字となりました。
制作費81億ウォンが投じられ、損益分岐点は動員240万と言われていた作品でした。

次は8月13日に公開された『侠女、刀の記憶』(邦題仮)。

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こちらはイ・ビョンホンさん、チョン・ドヨンさん、キム・ゴウンさん主演の本格的な「武侠映画」で、アクション映画としても期待を集めていましたが、結果は43万人と惨敗。
イ・ビョンホンさんが出ていてこの数字は、ちょっと信じがたいレベルです。
投じられた制作費は100億ウォン、損益分岐点は350万人とされていましたが、シビアな結果となりました。

そして、「2015年版『トンマッコルへようこそ』なるか」と期待された『西部戦線』(邦題仮)も、公開前の予想から大きく外れた結果に終わりました。

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ソル・ギョングさんとヨ・ジングさんの組み合わせで期待を集めたこの映画は、旧盆連休を狙って9月24日に公開されたものの、『思悼』や『探偵:ザ・ビギニング』との全面対決に破れ、60万人の動員に終わりました。
こちらの損益分岐点は300万人だったそうです。

最後にもうひとつ。11月25日に公開されたリュ・スンリョンさんとスジさん主演映画『桃李花歌/トリファガ』(邦題仮)も、第二の『風の丘を越えて/西便制』になるかと注目を集めたものの、成績はまったく奮いませんでした。

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スジちゃん、可愛いんだけどなぁ。
可愛いだけじゃ駄目、むしろ可愛かったから駄目だったみたいです。
朝鮮時代、まだ禁じられていた女性パンソリの師弟を描いたこの映画は、12月29日付けで31万人強の動員数(映画振興会しらべ)に終わり。
制作費91億ウォン、損益分岐点260万人とのことなので、こちらも手厳しいスコアとなりました。

上記で取り上げた映画は、作品の出来自体に辛口の評価が目立ちますが、作品の評判は良くても観客動員数で100万に満たない映画も、勿論あります。
チョ・ジョンソクさんの主演映画『スクープ:リャンチェン殺人記』(邦題仮)は、観客動員数こそ61万人強ながら高く評価する批評家の多い映画なので(いえ、決して私のえこひいきではなく。いえ、ほんとに。笑)、いい映画でも100万人を超えられないものがあるし、高スコアでも無内容の映画も当然あるという当たり前のことを、また思い出します。

さて、そんななか。
大ヒット映画は数多くあれど、「映画の中での女性たちはどんな立ち位置にあるのか」が、今日のテーマ。

先日、今年公開された韓国映画が女性をどれだけ登場させているかを「ベクデル・テスト」を基準に分析しまとめた「韓国映画の女性たち、お元気ですか?」という記事を読んだのですが、その「マガジンM」に掲載されていた興味深いいくつかの内容について、ご紹介してみようと思います。

その前に、「ベクデル・テスト」とは何かについて。
「ベクデル・テスト」は映画における「性平等指数」、ジェンダーバイアスを測るために用いられるテストで、発案したのは米国の有名な漫画家アリソン・ベクデルです。
彼は1985年に描いた漫画“Dykes to Watch Out For(警戒すべき同性愛者たち)”の中でその方法を示しました。それによると、指標は3つ。

1つ目は、名前のついた女性の登場人物が2人以上登場するか。
2つ目は、名前のついた女性の登場人物同士の会話があるか。
3つ目は、彼女たちの会話の内容に、男性に関わらない内容のものがあるか。

上記の基準からすぐ思い浮かぶのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』。
今年見た韓国映画以外の映画で、実は私はこれが一番好きです。
とにかく、泣きどおしで見ました。(笑)

そういえばこの映画、米国でわけの分からない男権主義者の団体(‘Men’s Rights Activists/男性の権利擁護活動家’)が「ハリウッドのリベラル派がまたしても、伝統的な‘男らしさ’の概念を損なおうとしている」などと噛み付いていましたっけ。

・・・・・・話を戻して。(笑)

そうなんです。韓国映画の「ベクデル・テスト」。

今年公開の韓国映画のうち観客動員数100万人以上の映画を分析した「マガジンM」の記事によれば、100万人以上22作品のうち、「ベクデル・テスト」をパスした映画は8つでした。

『暗殺』、『朝鮮名探偵2』、『ビューティーインサイド』、『今日の恋愛』、『ザ・フォン』、『チャイナタウン』、『長寿商会』、『あいつだ』(いずれも邦題仮)。

2015映画性平等指数

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一方、「ベクデル・テスト」のうち一項目も当てはまらなかった映画は『内部者たち』、『ヨンピョン海戦』、『極秘捜査』、『悪のクロニクル』の4本でした。

とはいえこの「ベクデル・テスト」。
要件を満たしていることが、すなわち映画における女性の比重の高さを示すものとはなりません。かろうじて名前のある女性が2人いるといった場合や、ほとんど重要な意味を成さない女性同士の挨拶程度の会話であってもカウントされるためです。
女性が主役など重要な役割を担っているものの、一人しかいない場合も「ベクデル・テスト」をパスすることは出来ません。

こうした「ベクデル・テスト」の限界性を補完する意味でつくられたもののひとつが、「マコ・モリ・テスト」です。
2013年の映画『パシフィック・リム』の女性主人公である、ロボット操縦士の「マコ・モリ」(菊池凛子扮)にちなんで名付けられています。
「マコ・モリ・テスト」の通過基準は以下の通り。

1.最低一人、女性のキャラクターが登場するか。
2.その女性は独自のストーリーラインを持っているか。
3.その物語は他の男性の物語を支えるものに留まっていないか。

「マコ・モリ・テスト」は女性が何人登場するかではなく、どれだけ比重のある役割を演じているかを問うテストなので、「ベクデル・テスト」で一項目も当てはまらなかった『極秘捜査』は「マコ・モリ・テスト」はパスできました。
同じく「ベクデル・テスト」はパスしなかった『黒い司祭たち』も、「マコ・モリ・テスト」はパス。「マガジンM」の記事によれば、『ヒマラヤ』もパスしています。

一方、100万以上の観客を集めた映画22作品のうち、クレジットに最初に名前が挙がってくる女性の数は、3人に留まりました。

『暗殺』のチョン・ジヒョン。
『ビューティーインサイド』のハン・ヒョジュ。
『チャイナタウン』のキム・ヘス。
女性二人が前面に立つ映画となると、キム・ヘスとキム・ゴウンの『チャイナタウン』のみです。

ちなみに、100万以上の22作品のうち、女性監督のものはゼロ。
観客動員数50位までと範囲を広げても、『スクープ』のノドク監督のみでした。

女性監督作品といえば、不当解雇にともに抵抗する中で生まれた女性たちの連帯と友情を描いた良質な映画『カート』(2014年11月公開)が思い出されますが、『カート』も内容に比して興行成績は奮わず、81万に留まりました。
うーむ。これは・・・・・・偶然?

テレビドラマには女性が主役の物語があふれているのに、こと映画となると登場人物は男性ばかり。
映画を見に行く女性たちも、お目当ては男性俳優だったりするので気づきにくいのですが、ちょっと立ち止まってみると「あれ?」という感じがしますよね。

キム・ヘスさんも『チャイナタウン』の公開にあたり、女性を主役にした韓国映画が少なすぎると憂いていたのですが、ある女性プロデューサーは、興行的に成功した映画のうち、女性を中心を中心にすえた作品が少なかった理由について問われ、映画の流行が変わったためだと分析していました。家で気軽に映画を見られるようになった今、「わざわざ映画館に足を運んでまで観たいと思う映画」となるとジャンルがおのずと限られてくるため、90年代後半から2000年前半にかけて主軸をなしていた恋愛映画が影を潜め、女性の出番が必然的に少なくなっているのだと。

確かに、派手なアクション映画ほど、映画館で観たいですよね。
結果、肉体にものをいわせられる男性に集中。
もしくは、マッチョな男性陣に囲まれた「ほぼ紅一点」パターン。
むむ。既にもう慣れ切ってます、その構図に。(笑)

投資会社も女性が主役の映画は嫌がるとのことなので、2016年、私たちはさらに「男性の物語」ばかり目にすることになるのでしょうか。
と考えると、少々危機感を覚えます。
世界の半分は女なのに、女性の物語が減ったり、多様な女性像が描かれなくなったりすれば、ジェンダーバランスにさらによからぬ影響を与えそうです。

ちなみに、映画の中の性的少数者比率をチェックする‘ヴィト・ルッソ・テスト’というものもあり。
‘ヴィト・ルッソ・テスト’では、映画に同性愛者、両性愛者、トランスジェンダーが登場しなければならず、彼らが性的なアイデンティティーのみで規定されることなく、プロットに重要な役割を果たすということが条件なのですが、100万以上の映画22作品のうち、性的少数者(LGBT)が登場するのは『悪のクロニクル』のみとのことでした。
このあたりも、お寒い現実をそのまま表しているんですね・・・・・・。
うーん。時代のキーワードはダイバーシティ、多様性なのに。

今まで散々スクリーンの男性俳優たちにうっとりしてきていて、これからもそうした映画は量産されると思うのですが、来年は今までどおりそういう映画も楽しみつつ、さらに女性たちを描いた映画があれば積極的に見に行こうと思います。
女性監督の映画や、女性を主役にした映画は、それだけでもチャレンジングだったんですよね。応援方法として手っ取り早いのは、やはりそうした映画を観ること。

ますます少なくなるのであろう女性監督や女性を中心にすえた作品を、来年は少しでも多く見ることで応援できたらなと思います。

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そんなわけで最後になりましたが。

今年もこのブログを訪れてくださり、ありがとうございました。

みなさまから頂いたコメントにいつも励まされ、笑わされ、共感し、教わる中で、今年一年も楽しく嬉しい気持ちで綴ることができました。心より感謝申し上げます。

来年も、みなさまとともにドラマや映画を楽しんでいけたらと願っています。
どうぞよろしくお願いいたします。

新しい年がみなさまにとって幸せな一年になりますこと、心よりお祈り申し上げます。

どうぞ、良いお年をお迎えくださいませ!