みなさま、こんにちは。

気づけば今年も残すところ半月となりました。
韓国は寒波に見舞われており、例年よりひと月ほど早く漢江の結氷が観測されたそうです。
なんでも1946年以来71年ぶりの早さだそうで、近々ソウル入りを控えた私も戦々恐々としている今日この頃です。

さて、今年が終わる前に駆け足で今年見たお勧めのドラマを、ネタバレを避けつつ取り上げてみようと思います。
日本でも12月19日から有線放送の「衛星劇場」で放送が始まる、tvNのドラマ『秘密の森』です。

このドラマはチョ・スンウさんとペ・ドゥナさんを主演に迎えて韓国で6月10日から7月30日まで全16話構成で放送されたもので、撮影と放送時期を並行させない完全な事前制作により作られた作品です。

私の中で『秘密の森』は2017年ベストドラマなので、今日は見どころなどをご紹介しようと思います。
これからテレビ放送を楽しみにご覧になろうという方も多いと思うので、ネタバレはしません。

まずはポスター。
以下画像はクリックで拡大する仕様になっています。

設計された真実、
全員が動機を持つ容疑者だ

「設計された真実」というフレーズが、ちょっと分かりにくいですよね。
非常に韓国語的な表現なので、より適切な日本語に置き換えるべきなのですが、「つくられた真実」とすると「嘘」という意味になってしまうので、なかなか訳が当てずらい言葉です。
文字通り「デザインされた」という意味なので、「企画された真実」と訳をあてたいところですが、それもまだ韓国的ですね。うーむ。

と本題に入る前に枝葉のところで唸っておりますが。(笑)

このドラマは検察を舞台にしています。検察と警察が協力して捜査に当たることから、警察も舞台の一部です。
チョ・スンウさんが演じる主人公ファン・シモク(35歳)は西部地検刑事三部に所属するソウル大出身の検察官で、ペ・ドゥナさんが演じるもう一人の主人公ハン・ヨジン(30歳)は龍山署の強行犯捜査班に勤める警察大出身の女性エリート刑事という設定。
チョ・スンウさんにとっては映画『インサイダーズ/内部者たち』に続く検察官役です。

韓国では検察を舞台にしたドラマが飽和状態にあり、「また検察ものか」という巷の反応がこのドラマにとってのまずは第1関門だったことでしょう。

加えて昨年秋以来今に至るまで、不正腐敗を描いたどんなエンタメ作品も現実に起きている出来事のドラマティックさに勝てないという、否応なく底上げされた人々の鑑識眼が第2関門。

最後に、じめじめ蒸し蒸しした時期に寒そうな絵面の地味で暗くて疲れそうなドラマをなかなか見る気が起きないという、時期的問題が第3関門として立ちはだかっていたのではないかと思います。

確かにこのドラマ、暑い中見るものじゃありません。
季節感って、リアルタイムの視聴率を稼ぐには大事です。(笑)

実際このドラマの視聴率は最終回で7.1%(TNMS提供。以下視聴率出典はすべてTNMS)とのことで、 初回放送3.2%からすればぐっと上がってはいるのですが、それでももうひと声欲しかったところ。
去年の1月から3月にかけて放送されたtvNのドラマ『シグナル』が最終回12.8%を記録しているので、それに比べると「視聴率があまり出なかった」という印象が拭えないのですが、とはいえ直前のドラマ『シカゴタイプライター』は最終回2.9%、その前の『明日、あなたと』は最終回3.9%なので、大健闘したのは間違いありません。

私もリアルタイムでは見ておらず、放送が終わってずいぶん経った頃に一気に16話見たのですが。

もー、これは。

ハンパナイ。(笑)

寝ないで続きを見たいドラマ、きました。

実はこのドラマ、12月8日付けニューヨーク・タイムズ紙上でTV評論家マイク・ハール氏が選定した「ベスト・インターナショナル・ショー10編」のうち、アジア圏ドラマとして唯一選ばれ、韓国でも再び注目を集めています。参考までに、他に英国のドラマが4編、ノルウェーのドラマが2編、豪州、フランス、イスラエルのドラマがそれぞれ1編選ばれています。

評論家自ら語っている通り、ペ・ドゥナさんが米国のドラマ『sense 8』に超能力者役で出演していたことと、このドラマが「ネットフリックス」によって韓国での放映と同時期にストリーミング配信されていたことが目に留まった理由として挙げられますが、そうしたアドバンテージがありつつも、もちろん中身が伴っていなければ選ばれることはありませんよね。
ちなみにストリーミング放送での英語タイトルは『Stranger』。

韓国国内でも13日、社団法人「韓国放送批評学会」が「放送批評賞」のドラマ部門を授与。それに先立ち今月5日にも、今年で9年目を迎えた「Korea Content Awards 2017」(主催:文化体育観光部、韓国コンテンツ振興院)で脚本家のイ・スヨンさんが文体部長官賞を受賞するなど、作品性を高く評価されています。
ちなみに去年「Korea Content Awards 2016」では『シグナル』の脚本家キム・ウニさんがドラマ部門で最も高い「大統領賞」を受賞していました。

この『秘密の森』は韓国では「ジャンルもの」と名付けられる犯罪推理劇、犯罪スリラーなのですが、「ジャンルもの」の新境地を開いたと名高いのが2016年のtvNのドラマ『シグナル』ですよね。

全体的に「ジャンルもの」が弱い韓国ドラマですが、そんな中でも『シグナル』の脚本家キム・ウニさんはこの部門の押しも押されもせぬ第一人者ですし、演出は『未生/ミセン』のキム・ウォンソクさんが務めるなど、『シグナル』はスタープレイヤーが揃った、いわば成功を約束された作品ではありました。

一方この『秘密の森』は、「ジャンルもの」のヒット要素に欠かせない超常現象やタイムトリップといった「飛び道具」の力を一切借りません。
もともとファンタジー要素大歓迎の私のような視聴者にとっては、一見するとなんとも味気なく感じます。
ましてや、時空間を超えてトランシーバーで意思疎通を図るなどという『シグナル』の荒業にどっぷり魅了されてしまった視聴者にとっては、いかにも平々凡々そうでなかなか食指が動きません。
その上主人公のファン・シモクは、子どもの頃脳の外科手術を行い、その副作用から感情をつかさどる部分が機能せず、理性ばかりが発達した人物との触れ込み。

「感情がないチョ・スンウを見てもなぁ」と正直思ってました。

本当にごめんなさい。(笑)

このドラマのまさに素晴らしいところは、主人公の検察官を「感情を排し、理性のみで判断し行動する」という人物に設定した、その意味深長さにこそあったのです。

脚本家イ・スヨンさんは、これがデビュー作という正真正銘の新人。
その観察眼の深さと鋭さに、恐れ入るばかりです。

このドラマの主な登場人物をポスターでご紹介しましょう。

感情に縛られない成文法が
私が生きる上でのガイドラインだ
ファン・シモク | チョ・スンウ

警察のプライドってもんがあるでしょ
私は妥協しない!
ハン・ヨジン | ペ・ドゥナ

公職者は汚すぎる必要も
身綺麗すぎる必要もない!
イ・チャンジュン | ユ・ジェミョン

くっついて助かるのなら
心臓だってくれてやる!
ソ・ドンジェ | イ・ジュンヒョク

この日が来ることだけを待っていたんです
私が何のために検事になったと思って!
ヨン・ウンス | シン・ヘソン

ほんの2行のコピーに、人物像がよく表されていますよね。

ネタバレにならない程度にあらすじを紹介しますと、検察に利益供与を行うことで黒い関係を維持してきた事業家のパク・ムソン(オム・ヒョソプ扮)が殺害され、ファン・シモクが犯人探しを進める内容。
検察との黒い関係があるだけに、西部地検次長のイ・チャンジュンや先輩検察官のソ・ドンジェが絡んでいないか疑うシモク。ここに研修を終えたばかりの後輩検察官ヨン・ウンスが絡んできて、積極的に係わりたがり・・・。

ネタバレにならないようにすると、ほとんど内容が書けませんね。(笑)

ちなみにイ・チャンジュン役のユ・ジェミョンさんは、『応答せよ1988』のドンリョンのお父さん。当たり前と言えば当たり前ですが、全くの別人ぶりに驚愕です。

以下韓国語ですが、人物相関図も載せておきます。

左側が検察陣営、右側が警察陣営です。

ポスターにはない登場人物は、右から、ハン・ヨジンの同僚刑事チャン・ゴン(チェ・ジェウン扮)、ハン・ヨジンの先輩刑事キム・スチャン(パク・チヌ扮)、龍山警察の署長キム・ウギュン(チェ・ビョンモ扮)。キム・ウギュンは西部地検次長イ・チャンジュンの友人です。

また、イ・チャンジュンの義父で財閥ハンジングループの会長にイ・ユンボム(キム・ギョンヨン扮)、イ・ユンボムの娘でイ・チャンジュンの妻にイ・ヨンジェ(ユン・セア扮)。

この他にも比重のある助演が多数出演していますが、ドラマ『鬼<トッケビ>』の出演者が多いのが『トッケビ』ファンには嬉しいところです。

推理もの、スリラーもののヒットの公式と言えば、大きな本筋を抱えつつ、毎回1話完結型のエピソードを挟んでいく形ですよね。

『ファントム』や『シグナル』のキム・ウニさんはまさにこの公式に長けていて、途中参戦の視聴者も取り込みやすい作りになっています。

でもこの『秘密の森』は、パク・ムソンを殺したのは誰かというただ一点のみを、最初から最後まで追っています。
なかなか硬派な脚本です。
ただ、そうなると最初から見るか、まったく見ないかの、どちらかになってしまいがちですよね。
視聴率がいま一つ上がらなかったのには、こうした点も少なからず作用したと思われます。
また、見始めたとしても視聴者に一つの筋だけを最初から最後まで飽きさせずに追わせるのはかなりの力量を要することですが、このドラマのすごいところは、それが完ぺきにできてしまっているところにあります。

ドラマのランニングタイムは1時間15分程度の回が3度ほど、短い時は1時間3分~8分台、最終回のみ1時間半近くありましたが、とにかく視聴者を集中させるので、あっという間に1話が終わります。ここまで無駄がなく、かといって不足もないドラマは滅多にないように思います。
映画のような映像で1話1話の完成度が非常に高く、話の展開に無理や矛盾が見いだせない、完璧さを誇る脚本。加えて人物描写が助演に至るまで丁寧なので、誰も彼も犯人に見えてくるという。

ドラマがエモーショナルな描写で人の感情を揺さぶろうとしない分、視聴者は登場人物の細かい表情を観察するようになり、状況把握に集中させるつくりになっています。
これを脚本家の方が狙ってやれているとしたら、天才的と言う他ありません。
勿論、そうした絵を導き出す監督の手腕も素晴らしいです。

そして、私の見る気をそいでいた「感情表現のないチョ・スンウ」。
これがまたどうしたことか。
見当違いにもほどがありました。(笑)

チョ・スンウさんって、天才じゃないでしょうか。
タダモノじゃないことは間違いないです。
彼は眉間の動きで思考のありようと小さな感情を表現してくるんですよね!(笑)

ちょっと目を上げる、ちょっと目を細める、ちょっと目を見開く、ちょっと首をかしげる、の「ちょっと」がこんなに雄弁だなんて、正直驚くばかりです。
あからさまに悲しい顔も、明らかに怒った顔もしないシモクは、毎回視聴者を号泣させていた演技もセリフも極めてエモーショナルな『シグナル』とは、まさに真逆。
かといって無表情なわけでは決してなく、「理性」をフル回転させて思考をめぐらすシモクの表情を、非常に豊かに表現しているんです。
見る側も「今のあの目つきは何だ?」「あの身振りは何だ?」「あのセリフは何だ?」と頭をフル稼働させながら、犯人捜しや次に起こる事態の推測に没頭。
ドラマに存分に浸ることができます。

そしてあとは、私としては見どころと言いたいくらいですが、とにかくチョ・スンウさんがカッコいい!(笑)

もう本当に。カッコいいんです。

私の場合は2話が終わった時点で「ナニコレ、面白い!」とドラマにロックオンされ、4話あたりからは「面白い」にプラスして「チョ・スンウめっさかっこいい」が頭に渦巻き始め、6話終了とともにノック・ダウン。以降、ドラマを見ながらも「なんでこんなにカッコいいの」が口から勝手に出てくる始末。
正直、「筋、頭に入ってる?」と自分でつっこみそうになるくらいでした。(笑)

チョ・スンウさんの魅力、ハンパないですね。
『神の贈り物-14日間』の時から好きな俳優さんではありましたし、演技力が確かなのは分かっていましたが、エモーショナルな演技も無く、容姿が武器というわけでもないのにこれだけ魅了してくるのですから、これはもう参りましたと言う他ありません。(笑)
どうして全16話なんだろう、もっとずっと続いて欲しいのにという気持ちがこみ上げ、一気に見てきたドラマを最終回だけは1日寝かしてしまったくらい、見終えてしまうのが惜しいドラマでした。

韓国の「ジャンルものドラマ」に明確な一線を画した『秘密の森』。
この後から出てくる作品は、『秘密の森』が一気に底上げした「脚本のクオリティ」に嫌でも比較されるという、容赦ない状況に直面することでしょう。
竜頭蛇尾が駆逐されるなら、視聴者としては歓迎するばかりです。

脚本、演出、俳優の三拍子がすべてパーフェクトにそろったドラマです。
社会派ドラマ、スリラーや推理ものがお好きな方は、是非ご覧になってみてください。
『シグナル』を抜くドラマは出てこないと思っていましたが、まったくの早合点でした。
こちらも「シーズン2」制作の可能性があるようなので、心から楽しみに待ちたいと思います。



最後に。

どーしてもこれを言いたくて、蛇足と知りつつ書いてしまいます。

チャラチャラし、利益や出世のためなら不正もお構いなしのソ・ドンジェ。

彼を見るにつけ、どうしてもある人の顔が浮かんでしまい、言いたくてうずうずしてきたのでとうとう言ってしまいます。

その「ある人」とは、この方です。

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すみません。

ほんとにすみません。

みなさまの脳裏にまでいらんこと焼き付けました。

でも、ほんっとに似てるんです、高田万由子さんに!

あー、すっきりした。(笑)

ソ・ドンジェを演じているイ・ジュンヒョクさん、美形ですよね。
このドラマ、韓国では「ユ・ジェミョンとイ・ジュンヒョクの再発見」と批評家に言われているのですが、まさにその通りだと思います。
イ・ジュンヒョクさん、これまでも数々のドラマに出演されていますが、このドラマは本当に当たり役だったのではないでしょうか。
ただ、この役柄のイメージが色濃くつくことが、ご本人にとっていいことなのかは定かではありませんが。(笑)

*コメント欄に多少のネタバレが含まれる可能性があります。