みなさま、こんにちは。

寒いくらいに涼しかった週末も束の間、あっという間に暑さがぶり返してきました。
みなさまも体調を崩されぬようお気をつけください。

さて、書く書くと言いながら手をつけていなかったソ・ジソブさん主演ドラマ『幽霊』について今日は書いてみようと思います。

とは言いつつも、実はもう全20話のうち16話が終わっています。
あらすじを期待された方は、ごめんなさい。
ものすごくザックリでまいります。(笑)

いやー、『幽霊』。
原題は『유령/ユリョン』、英語訳はゴーストとファントムが今勢力を二分していますが(you tubeの話です)、日本にどのタイトルで入ってくるかは、予断を許しません。
なにしろ『사랑비/愛の雨/サランピ』でまさかの『ラブレイン』攻撃を受けた私としましては、おいそれとタイトル訳を載せられないところではあります。邦題仮で『幽霊』としておきましょう。
その『幽霊』ですが。

このドラマ、レビューを書くのが非常に難しい!!!
なのでまず簡潔に×でお伝えしましょう。

面白いか 

すごく面白いか 

分かりやすいか ×

女性向けか ×

ロマンスありか ×

ロマンスなしでつまらないか ×

こんな感じでございます。(笑)

いやー、『幽霊』はですね。
すっごく面白いです。
面白いんですが、展開がとてつもなく速いです。
この展開の速さ、私の中では『マイダス/ミダス』を超える勢い。
まったく息をつかせぬ速さと緊迫感で物語が進みます。
しかも、16話までキスシーンの一つもありません。
なにしろそれ以前の話として、主役の男女が恋愛関係にありません。
ひと言で言って、マッチョです。
ソ・ジソブさん目当てで見ている女性は、大抵振り落とされるのではないかと思います。(笑)

タイトルの『幽霊』には複数の意味がかけられています。
一番大きいのは、主役のソ・ジソブさんが、じつは「幽霊」ってこと。

いえ、嘘です。幽霊ではありません。幽霊ではありませんが、この人と入れ替わってます。

警察のサイバー捜査チーム所属のキム・ウヒョン(ソ・ジソブ扮)とインターネット新聞「トゥルーストーリー」の主宰者パク・キヨン(チェ・ダニエル扮)は警察学校時代の同期で親友の間柄でしたが、キヨンは訓練生の時に警察の不正を知り、警察を去ります。そして天才ハッカー「ハーデス」となり、そうとは知らぬウヒョンに追われる身になっています。
ちなみにハーデスとはギリシャ神話で死をつかさどる神ですよね。冥府の神。

芸能人シン・ヒョジョンの自殺が実は他殺だったことを示す動画が出回り、捜査の過程でウヒョンはキヨンに行き着くのですが、ここでもう一つの幽霊ポイント。

シン・ヒョジョンはとある秘密を知ってしまうのですが、彼女を追い詰めようと犯人が送りつける不吉なメールは、いつも「オペラ座の怪人」のテーマとともに送られてきます。
「オペラ座の怪人」、英語で言えば”Phantom of the Opera”。

とある殺人事件を目撃してしまったシン・ヒョジョン。
彼女が口封じのために殺されたことを突き止めたハーデスことパク・キヨン。
ハーデスを犯人と考え捜査するキム・ウヒョン。

ところが実はウヒョンこそがシン・ヒョジョンが目撃した殺人事件に深く関わっていたことを逆にキヨンが突き止めてしまいます。

真相に近づいたキヨンはウヒョンに殺されかけ。

そう。いきなり主役が悪役なんです。

それも本物の悪役。

「スパイは俺以外にも警察に複数いる。どうにもできない」と銃を構えるウヒョン。それでもやはり親友を撃てないのですが、ぐずぐずしている間に二人を殺すために派遣されたヒットマンが二人を焼き殺すため爆発物を仕掛け、火を放ちます。

で、主役死亡。

まだ2話の途中なのにこれほど重大な精神的恐慌を視聴者にもたらすとは、脚本家、なに考えてんだって話です。(笑)

生き残ったほうは、こんな感じに。

ハーデスと知りつつウヒョンの同僚刑事ユ・ガンミ(イ・ヨニ扮)が身体データをすり替えウヒョンとして生き残らせます。
顔の火傷もすっかり形成外科手術で治してもらって、キヨンはウヒョンとして再登場。

まぁ、荒唐無稽なんです。(笑)

「顔は百歩譲って形成手術でどうにかできても、身長はごまかせないわよ。
ソガンジは背が高いんだから」と思われた方。ご安心ください。

ダニエルのほうがデカイです。(笑)

荒唐無稽なんですが、その荒唐無稽な前提が気にならないほどのスリリングな展開がこの後待っています。

基本的にはシン・ヒョジョンを殺した犯人を捜すという筋なのですが、真犯人が誰かということと、ウヒョンの正体がいつバレるかが見所になりますよね。

普通はこうした見所を引っ張って引っ張って話を続けるものですが、このドラマのすごいところは、どんどん途中でネタバレします。(笑)

まず、シン・ヒョジョンを殺したのも、ウヒョンを殺させたのも、この人です。

16話が終わっている現時点ではセガングループの新会長に就任していますが、最初はセガン証券の社長でした。

セガン財閥の会長だった父親が叔父にはめられ無実の罪で死に追いやられ、自らもグループの末席に置かれたチョ・ヒョンミン(オム・ギジュン扮)が、叔父に復讐し、セガングループの頂点に立つべく、検察と警察を抱き込んであらゆる犯罪を犯していくのですが、手口が巧妙なためウヒョン(キヨン)はなかなか捕まえることができません。

チョ・ヒョンミン役のオム・ギジュンさん。
ついこないだまで『女の香り』でこの上なく優しくて愛すべき主治医役を務めていたのに、今作ではものすごい変貌ぶりです。若干ヘルメッティな髪型もあいまってか、ちょっと不気味な雰囲気で怖いです。(笑)

そしてもう一人。

シン・ヒョジョンが目撃した殺人事件、まさにウヒョンがチョ・ヒョンミンの手下として絡んでいた殺人事件を捜査するうちに、ウヒョンが犯人ではないかと疑うようになったサイバー捜査課の新チーム長、クォン・ヒョクチュ(クァク・トヒョン扮)。

この人がことあるごとにウヒョン(キヨン)を疑ってかかったり、同僚のハン刑事(クォン・ヘヒョ扮)を殺したのはウヒョン(キヨン)じゃないかと疑ったりして厄介だったのですが、最後まで正体を隠せるかどうかがドキドキハラハラポイントかと思いきや、11話ラストにしてあっさり「実は俺、パク・キヨンっす」と告白。
大方の予想を裏切る型破りな展開、見る者にまったく気を抜かせません。(笑)

誰が犯人かはウヒョン(キヨン)たちも視聴者も分かっていて、あとは、誰が警察内のスパイかというところですが、このスパイも16話の終わりで誰だか判明しました。

この人です。

警察庁捜査局長のシン・ギョンス(チェ・ジョンウ扮)。
要は「エライさん」ですね。

16話、チョ・ヒョンミンと結託しているシン捜査局長が、スパイウェアが仕込まれていることを込みこみでセーフテック社のウイルス対策ソフトを警察庁に導入。
ウヒョンたちはチョ・ヒョンミンの策略にハマり、内部スパイを直属の上司であるチョン・ジェウク局長(チャン・ヒョンソン扮)と疑わされているので、17話以降この誤解が色々絡んできそうです。

そしてチョ・ヒョンミンも、かつて配下にいたキム・ウヒョンが自分に敵対するようになったのは、爆破事故による記憶障害ではなく、パク・キヨンだからということを、ハーデスとチョ・ヒョンミンの手下しか知らない“phantom0308”というIDをウヒョン(キヨン)が知っていたことから気付くのが、16話のラストです。

実はこのドラマの本当の面白さは、このドラマが韓国で現在進行形のリアリティをそのまま引き写している点にあるかもしれません。

芸能人性接待リスト、DDoS攻撃、金融ハッキング、民間人査察問題。
これらはすべていまや名前を知らない人はいないだろうポッドキャスト「나는 꼼수다/ナヌン コムスダ」で大きく問題が取りざたされてきたものです。

「나는 꼼수다/ナヌン コムスダ」は通称「ナコムス」と呼ばれ、意味はおよそ「俺はイカサマ師だ」みたいな感じでしょうか。

MBCの超有名番組「나는 가수다/ナヌンカスダ/私は歌手だ」をもじってつけたことがアリアリのこの番組。ポッドキャストとはウェブのサーバー上に音声データなどをアップロードして公開したもののことですが、ナコムスの3人は韓国の地上波放送や大手新聞が決して取り上げない大統領や政権与党の不正疑惑を徹底的に切り込んでいきます。

ポッドキャストが始まった当初は4人でしたが、元民主党(現統合民主党)国会議員のチョン・ボンジュさんが前回の大統領選挙時に議員活動の一環として大統領候補者(現大統領)の不正疑惑を追及したことが虚偽事実の流布とみなされ、報復的といえる有罪判決を受けて刑務所に収監された去年末以来、収録は3人で行われています。

ナコムスはかなりスリリングな問題を独自の調査に基づいて徹底追及するのを肝としているのですが、実はこの『幽霊』が始まるずっと前に、ナコムスはドラマで繰り返し出てくるDDoS(ディードス)攻撃という言葉をメジャーにしていました。

DDoS攻撃とは何台ものコンピューターを一斉に操作して特定のサイトを攻撃するハッキングの一種で、サーバーをダウンさせたりするのを目的に行うものだそうですが、去年の10月、ソウル市長選挙のときに実際このDDoS攻撃が選挙当日、選挙会場などを公示している選挙管理委員会主管の公式サイトに加えられました。
奇異なことに、投票に行く予定のサラリーマンが投票会場をチェックするであろう朝の6時台から8時台を狙ったかのように、サイトがダウンしたのです。

市民の投票行動を妨害しようと何者かが画策したのではないかと睨んだナコムスがポッドキャストを通じて独自の調査と追求を展開したことで世論も疑惑に目を向け、結果的には与党ハンナラ党(現セヌリ党)の20代の秘書一人が下手人として挙げられ、事件に幕が引かれたのですが、民主国家の根幹をゆるがせにしかねない選挙管理委員会へのサイバーテロの背景を徹底的に調査しようとしない選挙管理委員会のあり方自体が、いまだ多くの不信を生んでいます。

しかしまさか、そんな生々しいDDoS攻撃などという単語を、よもやドラマで聞くことになろうとは。
韓国ドラマの脚本家、毎度毎度すごすぎます。(笑)

その他にも、既にナコムスが提起して知られるようになったいくつかの問題をこのドラマが素材にしているため、ドラマのスリリングさと現実のきな臭さがあいまって、面白みはさらに倍。

極めつけは、ナコムスでの枕詞、「ひとつ小説を書いてみようと思うんだが」。
現政権の不正疑惑を扱うなど、あまりにきな臭く大胆不敵ですし、実際に仲間が一人報復的に投獄されている状況なので、彼らは推論をいう際に「これは小説なんだけどね」と前置きします。「これはあくまでも小説なんだけどさ(=仮説なんだけどさ)」と。

この独特の台詞が、劇中のパク・キヨンの口からも飛び出します。

そういえば劇中のパク・キヨンは、ウヒョンに入れ替わる前は「トゥルー・ストーリー」というネットメディアの主宰者で、天才ハッカーでしたね。考えてみたらこの設定もなかなかに意味深長?

とはいえドラマなので、勿論素材として拝借しているだけで特定のメッセージを寄せているわけではありません。
「ナコムスからネタを持ってくるか!」というのが強烈だ、というお話でした。

さて。

毎回映画を見ているような濃密さであっという間に時間が過ぎる『幽霊/유령』ですが、ドラマの面白さを引き立てているのは、主役のソ・ジソブさんの圧倒的な存在感もさりながら、この方の貢献をあげずにはおれません。

最後にこの方をフィーチャーさせてください。
クォン・ヒョクチュ役のクァク・トウォンさん。

この方の「怪演」が本当に素晴らしい。(笑)

警察の車両が盗聴されていることを逆手にとって、大声で歌を歌いながら敵の居所を逆探知する9話のワンシーンなのですが、よくぞここまでと思うアドリブをこれでもかと繰り出してきます。

このシーンではラジオにあわせて振りつきで熱唱しています。
歌うはズバリ、少女時代のユニット、テティソのTwinkle。

・・・訴えられるんじゃないでしょうか。(笑)

お耳直し(お目直し?!)したい方のために、本家も貼っておきます。

いやはや、クァク・トウォン(곽도원)さん。
なんと今回が、ドラマ初出演! でいらっしゃるんでしょうか?!
明らかにソン・ガンホの系譜です。
芸達者過ぎて、もはや役なのか本人の地なのか、区別がつきません。(笑)
今回の『幽霊』での怪演で新たなファンを続々と獲得している様子。
特に、既述のTwinkle熱唱で、お茶の間の少年少女のハートをガッツリわしづかみにしちゃったようですよ。

いつも思うのですが、韓国の芸能界も本当に幅が広いですよねぇ。
イケメン部門以外も、本当に素晴らしいです。



表沙汰にならない韓国のもうひとつのリアルを知っている人には、別の楽しみ方もできる『幽霊/유령』。
どうやらこのままハラハラさせてくれそうです。
ラストに向け、何故ウヒョンが悪に手を染めたのか、そのあたり謎が解けるでしょうか。

わずか4回しか残っていませんが、このまま最後まで楽しみたいと思います。