みなさま、こんにちは。

入梅前のソウルより、梅雨の只中の日本に戻りました。
本格的な夏がくる前の、まだ涼しさを感じられる時期ではありますが、食べ物の管理にはもう気をつけないといけませんね。
あとはなんと言っても、低気圧が引き起こす頭痛。
私としては梅雨の時期はこれが一番つらいです。
みなさまも、体調管理にはお気をつけ下さいませ。

さて、今日はソウルで観てきた映画『逆燐』の感想などを。

映画の感想に入る前に、ソウルといえば。
6月4日はちょうど韓国で統一地方選挙が行われたのですが。
尊敬するパク・ウォンスン(박원순)ソウル市長が見事再選されまして。

再選は間違いないと思っておりましたが、いやはや本当にうれしゅうございます。(笑)

しかしビビるのは、この期に及んでまだ対抗馬のチョン・モンジュン(정몽준)さんを選んだ人が投票者のうちの4割もいるってこと。
ホワイ、なにを基準にアナタガタ???

韓国語で恐縮ですが、チョン・モンジュンさんが今回展開したのは本当に“지저분한”選挙戦。
美学とか、皆無。率直に言って、彼はかなりのイメージダウンになったのではないでしょうか。大義はない。語れる政策もない。ひたすら相手候補を虚偽で罵倒のネガティブキャンペーン。
情けないを通り過ぎて、汚らしいの一言だったのですが、競合相手を嘘で罵倒する以外に何ら自らの能力を示せない、知名度抜群な財閥御曹司の多選議員に市政を預けなかった賢明なソウル市民が本当にありがたく、誇らしい思いです。

そんなわけで久しぶりに選挙結果に希望を感じながら、いい気分で日本に戻ったのですが。

勿論、観ずに帰る筈がありません。『逆鱗』。

いやあ。
誰ですか、酷評した評論家は?

全然面白かったですよ!


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英語版ポスターも貼ってみました。

北米でも公開されたということなので、北米版。

実は『逆鱗』、4月30日の公開以来、とにかく映画を酷評するものばかりが記事その他であがっており、ここでその評判をご紹介したものかどうか、かなり躊躇していました。

私としては応援する大好きなチョ・ジョンソクさん出演作品なので、まさかの酷評を目にすれば動揺せずにはおれません。
しかも、わりと信頼している映画評論家の評価だったりもしたので、あながち的外れでもないのだろうという予感もあり。

酷評の内容は、おおよそ以下のような感じ。

・ストーリーが散漫

・暗殺されるか否かを描いているはずなのに緊張感がない

・見ていてだるい

・枝葉の部分(主役以外の登場人物の描写)が細かすぎる

あまりに似たような評価が並ぶので、これは実際に見てみないことにはうかつに紹介できないなと思っていたのですが。

実際に観ての、上記に関する私の評価をマルバツで表しますと。

・ストーリーが散漫 

・暗殺されるか否かを描いているはずなのに緊張感がない 

・見ていてだるい 

・枝葉の部分(主役以外の登場人物の描写)が細かすぎる 

マルバツで、とか言いつつ、△が登場しております。(笑)

〇は評価が正しいことを意味し、△はそこまでは言い切れないという意味でつけました。

要するに、酷評は概ね当たってます。

・・・・・・ってオイ!(笑)

がしかし。

映画の短所に関しては上記の評価は確かに言い得たものだと私も感じましたが、だからといって映画全体が面白くないかと言ったら、それは全然別なんです。
私としては、この映画を酷評するのは、まったく的外れだと思います。
見る価値あり。面白いです。断言。キッパリ。

この映画、ヒョンビンさんの復帰作ということで、恐らく日本にも入ってきますよね。
なのでネタバレを避けつつ今回は書きます。

映画の主役は、前回予告編でも書きましたが、ヒョンビンさん演じる正祖(チョンジョ/정조)。

正祖は朝鮮王朝第22代の王で1752年に生まれ、48歳の1800年に亡くなっています。
朝鮮王朝は日本の植民地支配を受け1910年に王朝が途絶える第27代まで、1392年から518年間続いたのですが、1800年没となると、もう時代は近代ですよね。
こういう近代以降の王朝ドラマをみると、この時代に内向きな内政問題でこんな消耗的なことをしていなければもっとその後の国の運命が違っただろうにと侘しさが呼び起こされもするのですが、それはともかく、正祖(チョンジョ)。
正祖は韓流ファンのあいだではイ・ソジンさんが主演を務めたドラマ『イ・サン』の王様として知られているでしょうか。


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ドラマ『イ・サン』では正祖が生涯愛した女性を演じていたハン・ジミンさん。

今回は正祖の命を狙う敵役、義祖母の貞純王后(チョンスンワンフ/정순왕후)を演じています。


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貞純王后は1745年生まれ、1805年没。
正祖とは7歳しか変わらない若き「おばあちゃん」だったわけですが、ハン・ジミンさんは実はヒョンビンさんと実年齢同じなんですね。1982年生まれで今年32歳。
映画の中では、見た目正祖より年下です。
めちゃめちゃ若くて、その若さがさらに恐ろしさを引き立ててます。(笑)

正祖の父、思悼世子(サドセジャ)が米びつに8日間閉じ込められて餓死させられたのは、正祖が10才の時。
このむごい悲劇は15歳の時に51歳年上の英祖(ヨンジョ/영조)の妃として嫁いできた貞純王后が17歳の時に起きており、思悼世子(サドセジャ)が死に追いやられた背景には貞純王后一族の力が働いていたことから、映画の中でも正祖の母・恵慶宮洪氏(ヘギョングン ホンシ/혜경궁 홍씨)は、息子も夫同様暗殺されるのではないかとの恐れをひと時も拭えずにいます。


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実際の恵慶宮洪氏(ヘギョングン ホンシ)は1735年生まれ。
10才年下の「義母」との勢力争いのように一見見えつつ、実はそんな分かりやすい構図以外のところにこの映画が伝えたい真髄があります。

命を狙うものが「悪」で、そこから守ろうとするものが「善」。
正祖を主役に据えているために、おのずと前者に貞純王后を、後者に恵慶宮洪氏を当てはめて見がちなのですが、恵慶宮洪氏の描かれ方をみていくと、この映画はこの目立つ女性二人に正反対の役柄を演じさせているように見せかけながら、実はそうではないということがはっきりしていきます。

この映画が言わんとするところが一体何なのか。
要所要所に散りばめられた正祖のセリフや行動、そして正祖が信頼を寄せる尚冊(サンチェク)のセリフや行動をみれば、この映画が言わんとする構図がつかめるのですが。


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正祖が闘おうとした「もの」は、単に自分を追い落とそうとした「政敵」ではなく、正祖があくまでもこだわり、問いかけ、呼びかけ続けたのはその「勝ち方」なのだということが伝われば、演出上の短所が目につきつつも、十分今の社会に置き換えてみる価値のある作品になっていると思います。

さて、チョ・ジョンソクさん演じる人斬りのウルス。


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・・・・・・あ。

間違えた。

って嘘バレバレですみません。(笑)

だってーーーー。

ウルスったらほんとにずっとこんな感じなんですもん。


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くらーい。

こわーい。

登場シーンなんてこれですからね。


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この薄気味悪さ。幽霊でも乗ってそう。

綺麗なお顔にたくさんの付けボクロですし。

ぶーぶー。

なんて思っていたら。

すみません。言っちゃいますよ。言っちゃいますので聞きたくない方はどうぞこのまま閉じて下さい。
これだけは耐えられないので言っちゃいます。
言っちゃいますよ!

なんと、ラブありです!!

ラブありって、聞いてました?! 聞いてましたか?!

私は全然そんな情報を知らずに行ったので、もう嬉しすぎてサプライズの域入りました。

しかもなんか。

言っちゃいますよ。言っちゃいますからね。

苦悩するラブ系!

ブラボー。

たまんない。

全然期待してなかったんですもん。知らなかったんですもん。

だもんで、もうめちゃめちゃ嬉しかったです。

なんなんでしょう、彼の、あの無理やり汚されてもなおピュアさがにじみ出るあの清純さ。純粋さ。本気と書いてマジと読むラブへの一途さ。

いやー、すごいいいオマケもらっちゃいました。
まぁ、だから私が高評価って話が、無きにしも非ずですが。(いえ、嘘です。ほんとにラブ抜いてもいいです。・・・・・・とは言い切れないですけど。笑)

これはですね。
分かりますよ。なんだか。不評の意味が。
多分、ヒョンビンさんファンの方々は、ちょっと不満?

「主役、誰よ?」的なところ、確かにあるんです。

なんなら、チョ・ジョンソクさんが主役です。ええ。
なのでチョ・ジョンソクさんのファンのみなさまは、嬉々として見に行かれて下さいませ。(笑)

私もまさか、こんなにチョ・ジョンソクさんがフィーチャーされてると期待していなかったので、「枝葉が多い」どころか、「枝葉多くてありがとう!」な感想なのですが、それでも確かに枝葉は多いです。ヒョンビンさんとチョ・ジョンソクさんとチョン・ジェヨンさんの3人を掘り下げただけで観客の集中力を保つにはMAXだったはずなのに、さらなる掘り下げアンド周辺人物を絡めて描きすぎたため、飽和状態に。それが「だるさ」と「緊張感のなさ」、「物語の散漫さ」に確かに繋がっていて、そこは残念ながら確かに文句言われるレベルではありました。

そのくせ「この人掘り下げるべきなんじゃ?」の人はスルーだったりもして。


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この人こそがウルス(チョ・ジョンソク扮)を殺し屋に育てた人物なのですが、どうせあんなに飽和状態にするなら、この人の「意味」をもっと描いて欲しかったですね。

と色々書きましたが、この映画、ちっとも面白くないなんてことはないので、是非機会があれば見に行かれてみて下さい。

ヒョンビンさんの演技も良かったです!
とても抑制された、悲しみをたたえた演技。
静かな中に迫力もみなぎっていて、ヒョンビンさんの初時代劇は期待値を上回る演技だったと思います。

ハン・ジミンさんも、新境地を開いたといわれるだけのことはある悪女ぶり。

俳優さんたちの演技は、一部新人を除けばみなさん押しなべていいです。

ちなみにこの映画、今月3日から早々にVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスも開始となりました。
映画館での上映はもう殆ど終わっており、ソウルでも深夜帯に一度だけというのが殆ど。
これまでの観客動員数は383万人とさほど振るわず、損益分岐点は超えたようですが、制作側が期待したほどの興業成績にはなっていないと思います。
公開後すぐに芳しくない評価が流れたことが災いしたかもしれませんね。また、公開2週前に起きたセウォル号沈没事故により、人々が映画を楽しむ気持ちになれずにいるのも影響したかもしれません。時期が少しずれていればまた違う評価を得られたかも。
いや実は、タイトル負けしたのかも?! 『逆鱗』なんて仰々しいタイトルさえつけなければ、みんなもっと満足してくれた?!

などと勝手なことを言っておりますが。
いずれ日本にも入ってきますように。