みなさま、こんにちは。

今日は韓国で去年の12月7日に公開され、現在「Netfreax (ネットフリークス)」でオンライン配信されているキム・ナムギルさん主演映画『パンドラ』について、ポスターや予告編などをご紹介しようと思います。

韓国で初めて原発事故を扱った映画『パンドラ』。

いつかは紹介しようと思っているうちに月日が経ってしまいましたが、ちょうどいま「Netfreax (ネットフリークス)」というオンライン有料映画配信サービスで4月11日から映画が配信されているそうですね。
該当ページを覗いてみたら、なんと日本語吹き替え版も!

キム・ナムギルさんのファンのみなさはもうご覧になられたかもしれませんが、Netfreax (ネットフリークス)のリンクを貼っておきますね。
リンクはコチラから。

この映画は2011年3月に起きた福島原発事故をモデルに、韓国南東部でM6.2の地震が発生し、老朽化した原発が爆発事故を引き起こすさまを、事故を隠そうとする政府の姿や真実を知らされぬまま逃げ惑う人々のパニックなどとともに、事態の収拾に死力を尽くす原発作業員の姿を描いています。

まずは映画のポスターを。

パク・チョンウ監督は福島原発事故の様子を報道を通じて目の当たりにし、韓国でもし老朽化した原発が爆発したらどうなるだろうかと危機感を抱き、映画を構想したそうです。

原発事故に関するあらゆる資料を調べ、原発事故とは何なのか、どのような状況で起こるのか、事故後の対応など、物語の信憑性を支える事実の確認にかなりの時間を費やしたという監督。
制作発表でこそ言葉を控えたものの、モデルが福島原発事故にあることは、映画の中で繰り広げられるさまざまな場面を見れば、私たちには一目瞭然です。
監督が福島原発事故の引き金になった東日本大震災についても細かく学習しただろうことが、映画のエピソードの中に見て取れます。

それだけ、福島原発事故を身をもって経験した人々には、この既視感の連続、もっというと「福島原発事故の映画」と言い切っていいような数々の再現に、見るのが苦しくなるかもしれません。

原発と隣り合わせの海辺の小さな村。

貧しい村では男も女も老いも若きも、原発に依存する仕事で生計を立てていて。

住民の命よりも、迫りくる水蒸気爆発の危機よりも、原発の温存こそが第一義的な電力会社。

そして、原発事故に直面し、原発マフィアの前でただただ無力な大統領。

こう書いただけでも、日本のことだなとお分かりになると思います。

もっとも、公開当時韓国ではまさに大統領とその友人による不正腐敗が明るみになっている状況だったため、「韓国で十分ありえる」と身震いしながら人々は観覧していました。
政治的な状況のみならず、昨年9月12月に慶州地方で起きたM5.8の地震が、それまで「地震安全地帯」と安心しきっていた韓国の人々に危機意識を目覚めさせたことも重要なポイントです。
この映画は、韓国の人々が普段ほとんど関心を持っていない原発に関する映画でありながら、当初の予想を超え458万人もの観客が劇場に足を運ぶ結果を迎えました。いま『パンドラ』にあるような状況が本当に韓国で起きたらとんでもないことになると思ったと、映画を観に行った友人が顔を強張らせながら話してくれたのが印象的でした。
「地震がないので原発事故など起きない」と高をくくっていた韓国の人々が、この映画で正しく恐怖を感じ、世界でもっとも人口密集度の高い韓国の現状を、原発を止める方向で変えてくれればと思っているところです。

映画の出演者をご紹介しておきましょう。

まず、主人公カン・ジェヒョクを演じるのはキム・ナムギルさん。

原発の村で小さな食堂を営んでいるキム・ナムギルさんの母に、先日すい臓がんにより帰らぬ人となったキム・ヨンエさん。

ジェヒョクの義理の姉ジョンヘ役にムン・ジョンヒさん。

ジェヒョクの幼馴染みで、同じく原発の下請け会社で働くギルソプ役にキム・デミョンさん。

ジェヒョクの彼女で原発の広報館で働いているヨンジュ役にキム・ジュヒョンさん。

原発の所長、ピョンソプ役にチョン・ジニョンさん。

その他カン大統領役にキム・ミョンミンさん、事故を隠そうとする総理役にイ・ギョンヨンさんというラインアップになっています。

以下、スチール写真をいくつかご紹介します。

電力会社が政府・官僚と一丸となって人々を騙してきた「原発はクリーンで安全」という神話を固く信じているジェヒョクの母。
とはいえジェヒョクの母は、数年前に夫を突発的な放射能事故による急性被爆で亡くし、助けに入ったジェヒョクの兄もその後被爆が原因で亡くしています。
この放射能漏れ事故は、1999年9月に茨城県の東海村にある核燃料加工施設で起きた「東海村JCO臨界事故」をモデルにしていると思われます。

夫を亡くしたあとも幼い息子と共に嫁ぎ先の家族と暮らしているジェヒョクの義姉は、内心原発の村を離れたがっているのですが、なかなか言い出せず。
地震の後も原発になにかあるかもしれないのですぐに遠くに逃げなければと言うのですが、老いた義母が取り合ってくれません。
結局原発の爆発を目の当たりにすることになり、義母への感情が悪化するのですが、このあたりなども避難や移住を巡る実際の日本での状況などとだぶらずにはおれません。

ハンビョル原発の所長役を勤めたチョン・ジニョンさんは、日ごろから原発には反対の立場だったそうで、この映画のシナリオを見たとき「本当に作れるのなら、二つ返事でやる」と答えたそうです。
実際この映画は監督やチョン・ジニョンさんの予想通り、製作の過程でさまざまな圧力と難関にぶち当たりました。

韓国映画のおよそ6割は「母胎ファンド」と呼ばれるファンドから総制作費の4割をサポートされてるのですが、原発事故を描いたこの映画は途中出資を中断される憂き目にあいます。
ちなみに母胎ファンドとは、ベンチャー企業の育成のために韓国政府が2005年から法律に基づいてファンドオブファンズ(Fund of Funds)による基金を組成し、その基金を委託された専門会社が管理・運用する形態のファンドのことで、政府や公共機関などが出資しています。

投資を「人質」に行われる検閲。
こうした政府による締め付けは映画界をはじめとした大衆芸能の世界ではまことしやかにささやかれていたことですが、今回大統領周辺への捜査を進める中で、政府に批判的な映画や演劇、音楽や出版を行った者に対し一切の財政援助から排除する「ブラックリスト」が実際に省庁内で作られていたことがわかり、韓国社会に激震が走りました。
この映画もブラックリスト入りしたために、資金サポートを切られたのでした。

1年半もの間映画を上映することができなかったそうですが、待っている間に慶州で地震が起き、ブラックリストの存在がどんどん明るみに出たのを考えると、結果的には映画は実に適切な時期に公開されたと言えそうです。

リストの作成に関わった文化観光体育部長官とリスト作成の黒幕である青瓦台秘書室長は現在裁判にかけられていますが、ここでリストにあげられた人はおよそ1万人。
「リストに名前がないほうが不名誉」と大衆芸能に従事する人々がこぞって口にするほど、ブラックリストは多岐にわたっていました。
俳優ではソン・ガンホさん、キム・ヘスさん、パク・ヘイルさん、チョン・ウソンさん、ハ・ジウォンさんなど。ソン・ガンホさんは映画『弁護人』で目を付けられ、『弁護人』のあとひっきりなしだった出演オファーが一時ぱたりと止んでしまったそうです。
ブラックリストなるものが実在していたことに人々は驚愕し、激しく怒ったのですが、一方でファンにとってはここで名前を挙げられた人はこれからもずっと応援したい人にもなりました。
あのような政府になら、睨まれたほうがむしろ誇らしいと大方の人は感じています。

そんな紆余曲折を経たこの映画。

ようやく予告編をご覧いただきましょう。

まずこちらは、短いものが二本まとめてあるバージョンになっています。

動画はyou tubeのMOVIE&NEW公式アカウントより。



パンドラ 
災害編

この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ
<ダンテの神曲地獄篇第3曲より>

史上かつてない災害が すべてを呑み込む

悪夢のような 災いの始まり

パンドラ

パンドラ 
死闘編

悲しみがあらゆる場所を覆い
恐怖がそこらじゅうからにじり寄ってくる
<フランチェスコ・ペトラルカの手紙より>

誰ひとり

国民の皆さん。
ハンビョル1号機は現在、取り返しのつかない最悪の状況に直面しています。

抜け出せない

正直に申し上げて、どうすることも出来ません。

韓国史上かつてない災害

生き残らなければならない

ジェヒョク!

パンドラ 12月公開

こちらはもう少し長めの、メイン予告編。

動画はyou tubeのソウル新聞公式アカウントより。



なにやってるんですか?
中の人たちを放っておくつもりですか?

非常訓練を装って屋内退避するよう命じなさい。
外部に情報が漏れるのを防がねばなりません。

すべてが崩れ落ちた日

ヨンジュ。家族を連れて遠くに逃げろ。

やめて!

混乱に陥った人々

事故を隠すだなんて! 原発事故ですよ、原発事故!

韓国が危険だ

ここにいては駄目です。すぐ出なければ!

ジェヒョクは? ジェヒョクはどうなるんだい?

国民の皆さん。
政府には、正直に申し上げてどうすることも出来ません。

逃げる場所も

僕たちがやらなきゃ

隠れる場所もない

僕たちの家族が死ぬんです。

必ず食い止めなければならない

ジェヒョク!

パンドラ 絶賛上映中

俺たちは、パンドラの箱を開けてしまったんだ。

原発の村で生まれ育ち、原発の下請け会社で整備工をしている平凡な青年を演じるため、太ってこの映画に挑んだというキム・ナムギルさん。

役にかけた思いが予告編からも伝わってきますよね。

そしてやはり、なんと言ってもキム・ヨンエさん。

キム・ヨンエさんは『弁護人』から始まって『カート(邦題:明日へ)』、『パンドラ』と、ここ数年本当にいい映画に出演されていたので、ドラマ『モレシゲ(砂時計)』で主人公テスのオモニ役をされている時から私もずっと好きな方でしたが、映画ではこれが遺作になってしまい、本当に残念でなりません。
『太陽を抱く月』の時に癌が発覚し、闘病しながら演技を続けられていたそうですが、あの凛とした美しい姿がもう見れないのかと思うと本当に悲しい気持ちです。

『パンドラ』は韓国以外の劇場にかかる予定はないそうなので、是非「Netfreax (ネットフリークス)」をチェックされてみてください。

明日4月26日はチェルノブイリ原発事故が起きて31年目。
日本でも原発の汚染で故郷を失った人があんなに大勢いて、いまも苦しんでおられるというのに、その痛みに責任を果たす意志があると到底思えない政府・閣僚の理不尽な対応がずっと続いています。
ずっと物議をかもしていた名ばかりの復興大臣は、今日また新たに物議をかもした舌禍の責任を取り、辞任の意向を固めたそうですね。
そして同じ日の今日、また新たに福井県の高浜原発4号機を再稼動させるとの報道がありました。
疑問符ばかりが残ります。

この映画が劇場にかからないのは残念ですが、大震災と原発事故を目の当たりにした人々にとっては劇場で見るにはつらすぎる映画なので、かえってオンライン配信はいいのかもしれません。

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最後に、この映画を紹介したシネマトゥデイの記事がとても良いので、よろしければご覧ください。
私はこの映画をご覧になる日本のかたが「大袈裟だ」というのではないかとどこかで心配していたのですが、むしろこのかたは「まだまだ放射能の危険性に対する認識が甘いのでは?」と書かれているので、なんだかほっとしました。
リンクはコチラです。
ちなみに、この記事に書かれている月城(ウォルソン)原発の再稼動は、再稼動中止を求めて提訴した人々が勝訴し、2月7日に裁判所が再稼動決定の取り消しを宣告しています。