みなさま、こんにちは。

しぶとく粘る9月の残暑。
関東地方の空はまだ、入道雲がもくもくで夏真っ盛りかのようです。
涼しい秋風が待ち遠しいですね。

さて、今日は先日13日に韓国で公開されたイ・ビョンホンさん主演映画『光海(クァンヘ)、王になった男/광해 왕이 된 남자』(邦題仮)について。

光海君(クァンヘグン)は在位1608~1623年、朝鮮第15代の王です。
世子(王子)時代、豊臣秀吉軍による二度の侵攻を受けた際、各地を回って兵を集め首都防衛を果たすなど豊臣軍撃退の功績が認められ、本来王と指名されていた満2歳の幼い腹違いの弟・永昌大君(ヨンチャンテグム)を押しのけ、王の座に君臨しました。

満州で勢力を拡大していた騎馬民族・女真族による新興国家・後金と明朝との間で戦争が勃発した際、明の援軍要請に応じて1万の兵を送りつつも意図的に自軍を後金に投降させるなど、巧妙に両国の間でバランスを取り、戦火に朝鮮が巻き込まれるのを防いだ策略家として、その類い稀な実利外交手腕に高い評価を受けた人物です。
その一方、豊臣軍を撃退する際に功績を挙げたことで光海君の側近となっていた大北派(テブクパ)の強引な要請に抗えず、幼い弟の身分を庶民に降格したうえ翌年満8歳の永昌大君を殺害、5年後には永昌大君の母であり自らの継母でもある仁穆大妃(インモクテビ)も幽閉するなど、むごい政争を繰り広げたことが庶民の怒りを買い、結局1623年、庶民主導の一大決起により廃位に追いやられた人物でもあります。

朝鮮王朝は、朝鮮第1代目の王・太祖(テジョ)の時から第25代王の哲宗(チョルジョン)まで、王ごとに「朝鮮王朝実録」と呼ばれる王朝の記録を編年体でつけていましたが、この映画は15代王である光海君の日記の中の意味深な一節からヒントを得てつくられたものです。

そこには、こう記されていました。

可諱之事 勿出朝報

隠すべきことは知られざるべし

「朝鮮王朝実録」のうち、光海君のものは「光海君日記」という名前で編纂されているのですが、上記の意味深な一行の他にも、なぜか15日分の日記が欠落しています。

命を狙われていると怯えるあまり、暴君と化していた光海君が、なぜ15日間だけ日記を残さなかったのか。
もしかしたら替え玉が据えられていたからではないか。
そんな想像力からこの映画は生まれました。

「朝鮮王朝実録」についてもう少し説明してみます。

「朝鮮王朝実録」は、光海君と歴史的にもとても関係が深いのです。

豊臣軍の二度に渡る侵攻で三箇所の史庫を焼かれるなど、歴史書の安全確保に迫られた光海君の時代から、「朝鮮王朝実録」は同じ内容のものを合計5冊つくることになり、それぞれ人里離れた山深い場所に保管するようになりました。現在の韓国の領地だけでなく、北朝鮮の領地である妙高山もその中に含まれています。
光海君の後、1624年にソウルの春秋館に保管していたものが乱により焼かれて以降は、4箇所に分けられ、引き続き保管されてきました。

朝鮮王朝時代の時代劇をみると、王が何やら臣下と謀議をはかる場面がたびたび出てきますが、実は朝鮮の王は実録を記録する史官(サグァン)や王が下した命令や様々な事件を日々記録する承政院日記(スンジョンウォンイルギ)の記録係である注書(チュソ)の同席なくしては、いかなる臣下とも会えないのが原則でした。
しかも、王は自分について書かれたものを一切読むことが許されませんでした。
王権を日々けん制する目的も実録に含まれていたことが、このことよりうかがえます。

ハングルをつくったことで知られる世宗(セジョン)王が、自分の父・太祖について書かれた実録を見たいと申し出たところ、臣下から不当な行いだと強く抗議があがり、断念したというエピソードも残っているそうです。

「ぬしも悪よのぉ」などというお約束の場面は、実際にはほぼありえなかったんですよね。(笑)

ただし、規定どおり実録が王の権力から独立的であれたかは時代によって異なり、史官の氏名は匿名にすべきとの原則を破り、記名式で記録を書かせることで圧力を加えた王もいたようです。

この「朝鮮王朝実録」は記録として詳細な点と、内容の信憑性が評価され、1997年にユネスコ世界記録遺産に登録されています。

「朝鮮王朝実録」の受難についても記しておきましょう。
日本による植民地時代。
1914年、当時4箇所かに分けて保管されていた「朝鮮王朝実録」のうち、五台山(オデサン)に保管されていた実録は、植民地統治管理機構である朝鮮総督府を通じて東京帝大(現東大)に運び込まれた後、1923年の関東大震災により大半が焼失してしまうという憂き目に遭いました。焼け残ったのは、五台山保管分の761冊の実録のうち教授たちが外部に持ち出していたわずか74冊。そのうち27冊は1932年に京城大学に渡るかたちで日本統治下の朝鮮に戻り、残りの47冊は韓国民間団体の働きかけにより韓国に戻される2006年まで、東京大学の図書館が持ち続けていました。

朝鮮王朝500年の歴史を綴り続けた「朝鮮王朝実録」。
様々な歴史を潜り抜けて現在に至っています。
歴代王たちのおかしな言動が満載になっていそうな点でも、読んでみたいなと興味をそそられます。(笑)

さて、映画の話に戻ります。

この映画はイ・ビョンホンさんが一人二役を演じています。
王である光海君と、人を笑わせるのが得意の芸人ハソン。

王は食事も女官に毒見をさせないと食べられないほど、人を信じられなくなっています。
命が狙われていると感じているのです。
そこで、身代わりを一人調達します。自分そっくりの男、道化のハソンを。

王の身代わりをさせられ、おっかなびっくり王のふりをしていたハソンが、次第に国の統治がいかに誤っているかに気付き、自分が国を治めたいと思うようになるが、果たして結論やいかに・・・・・・といった内容です。

以下、予告動画です。

光海君8年、2月28日
「隠すべきことは知られざるべし」
可諱之事 勿出朝報

今すぐ城に行って半月分の日記を持って来い。

朝鮮王朝実録から消えた

盗んででも、奪ってでも、必ず持ってくるのだ。

光海君15日間の行跡

光海
王になった男

飲めと言った。
どうした? 飲めと言うに!

お許しくださいませ。

余の命を狙う者が増えるばかりだ。

急ぐのだ。そっくりな男を。
誰も信じられぬ。

死にたくなければ、いまから私の言う言葉をよく聞け。
あとで王様にお目にかかりにいく。

卑しき民、王になる

おもてを上げよ。
しばらく余の代役を務めるのだ。

いい人みつけたね。

四方八方に監視の目が光っている。
特に注意が必要だ。

王様。

入れ。

言葉遣いが段々王様に似てきておいでです。

俺も時々自分が本物の王様みたいだなって思う。

あそこのおなごのことだ。

王妃様でございます。

ちょっと、ちょっと待って。

お前は王ではない。

王になってはならない男

耳をかっぽじってお聞きなさいという意味です。

朝鮮が夢見てきた王になる

これまで卑しく生きてきたが、もういまは違う。
一体、この国は誰の国なのだ?

王様。

恥を知りなさい!

歴史の中に消えた15日間の記録

民を天のごとく崇める王。
本当にそなたの夢見る王がそのような王なら、その夢、私が叶えてしんぜよう。

光海
王になった男

王になりたいのだ。

「イ・ビョンホンのための映画」などという人も中にはいますが、そんな人でも面白かったと絶賛していて、ビョンホニー、もとい、ビョンホンさんの演技がかなりすごいそうです。(笑)

韓国はいまや年末に控えた大統領選挙に向かって各党も候補者もアクセルをどんどん踏み始めた状況。

政治の季節に突入する中、観客はいやおうなく理想の「王」を思い浮かべることでしょう。

私もぜひ見たい映画です。