みなさま、こんにちは。

あっという間に2月も半ばを過ぎ。
待ち遠しかった春がいつのまにか目の前までやってきています。
とはいえまだやまない冬の脅威。
全国的にまた雪の予報が出ているようなので、どうぞみなさまもお気をつけください。

さて、今日は韓国で2月6日に封切りとなった映画『もうひとつの約束(原題:또 하나의 약속) 』(邦題仮)をご紹介します。


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『絶対に諦めません。父親だから』
世界を泣かせた父の熱きもうひとつの約束

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世の中を動かした1万人の人々
いまやあなたも知っておくべき嘘のような実話
もうひとつの約束

ポスターのコピーから薄々感じ取れるかと思いますが。

これは悲しい映画です。

とても悲しい映画。

主人公はタクシー運転手のファン・サング。
家計が苦しく大学に進学させることの出来なかった娘ユンミは、高校卒業後、屈指の大企業チンソンの半導体工場に就職し、自分が弟の学費を出すと笑顔を見せる明るい娘でした。
笑顔で送り出した娘は、ところが3年を待たずに重い病気にかかって故郷に戻ります。

白血病。
健康そのものだった娘を病気にさせた会社は、因果関係を認めようとしません。みるみるうちに病状が悪化し、命を落とす娘。
父は娘と交わした、会社の責任を認めさせるという約束を果たすため、巨大企業を相手に一人立ち上がる、というストーリーなのですが-。

この物語の本当の主人公の名は、ファン・ユミ。
2007年に22年の短い生涯を白血病で終えなければならなかったファン・ユミさん。
彼女が勤めていた大企業とは、サムスン(SAMSUNG/三星/サムソン)電子のことです。

半導体を製造するサムスン電子キフン工場に高校卒業後の2003年に就職したファン・ユミさんは、勤務開始から2年余り経った2005年に、白血病を患い家に戻ります。
家族の懸命な祈りも空しく、帰らぬ人となってしまったファン・ユミさん。

タクシー運転手をしていた父親のファン・サンギさんは、娘の白血病が、死の原因が、サムスンにあると認めさせるため、誰もが恐れて口をつぐむ巨大企業を相手に一人立ち上がります。

この映画は、その事実を知ったキム・テユン監督が、実話を元に自らシナリオを書き作り上げた、渾身の作品です。

主演はパク・チョルミン(박철민)さん。
娘ユンミ役は、パク・フィジョン(박희정)さん。


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孤軍奮闘する父サングが助けを求めた労務士ナンジュ役に、キム・ギュリ(김규리)さん。

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サムスン。
大卒者が昨年下半期の系列25社の募集に対し10万人も願書を出した巨大企業。若者なら誰もがひとまず目指す韓国国内企業の頂点であり、サムスンが傾けば韓国経済が危うくなると人々が信じて疑わない巨大組織。
韓国内に留まらず、故国を離れたコリアンにとっても、サムスンは祖国を代表する誇らしい企業として認識されていることでしょう。

そんな人には、サムスンがひねり潰したくてたまらない「不都合な真実」を描いたこの映画は、見ないふりをし続けたいものとして映るかも知れません。

キム・テユン監督は昨年公開されたキム・ヨウォンさん主演映画『容疑者X』のシナリオを書いた方なのですが、この話を商業映画として制作するつもりだと監督が話すと、殆どの人に正気かと止められたそうです。
その素材ならドキュメンタリー映画にしてはどうかと言われながらも、劇場で多くの人が観るものにしたいという気持ちが揺れることはなかったという監督。気持ちは分かるが到底完成にこぎつけられないだろうからと、断念するよう諭した人も多かったそうですが、結局この映画のシナリオを書き上げたそうです。
多くの人たちが監督に助言したとおり、実際この映画は国内の大手映画投資ファンドから一切の資金提供を受けられませんでした。
出演を依頼した俳優にも、次々と断られたそうです。

前途多難どころか、ほぼ制作は不可能と思われていたこの映画ですが、それでも亡くなったファン・ユミさんと、娘の労災を認めさせるべく必死に闘う父サングさんのために、決して諦めなかった関係者たち。韓国映画で初めて、製作費用を全て市民によるクラウドファンディングでまかなうことに成功しました。募金に参加した人数は1万人。募金した人の中にはサムスンの社員、サムスンの半導体研究者もいたそうです。
サムスンは労働組合の結成を禁じていますが、このような痛ましい事態を会社が認めないことに、サムスンの社員も心ひそかに傷ついているのでしょう。

映画製作に最低限必要だった10億ウォンを1万人の市民によるクラウドファンディングで集め、個人投資家からも合計3億ウォンを集めたこの映画は、主演のパク・チョルミンさんもギャラを寄付、超一流撮影監督も100万ウォンしかギャラを提示を出来ないプロデューサーにノーギャラで応えるなど暖かい心が重なり合う中で、完成にこぎつけました。


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こちらはVIP試写会に訪れたチョ・ジョンソクさん。

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一人だけ載せるのはえこひいきですよね。(笑)

チャン・ヒョクさん。

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ユ・ジテさん。

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そして東方神起のユノさん。

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チョ・ジョンソクさんは、きっとあれでしょうね。
キングで共演されたキム・ギュリさんが出演されているので。

・・・・・・え? あれはイ・ユンジ?

すみません、知ってて言ってるのバレバレで。(笑)

でも本当に似てますよね、イ・ユンジさんとキム・ギュリさん。
私だけでしょうか、区別がつかないのは。

とにかく。

たくさんの俳優仲間たちも駆けつけ、この映画に熱い声援を送っていたので、この映画の行く末を見守っていた私もひそかに安堵していたのですが。

本当の闘いは、ここからでした。

なんと映画館が、映画をかけない

全然上映しない。

・・・・・・マジか?!(怒!)

例えば、観客動員1100万人を超え、現在も上映中の『弁護人』。

ふた月前の封切り当初は全国500館程度の上映だったそうですが、12月末には908館。1月10日には718館、観客が減ってきた2月中旬現在でも300館以上で上映されています。

ところがこの『もうひとつの約束』。

配給会社は全国300館での上映を目指していました。
チケット予約順位も総合3位。この日上映する映画の中では1位を記録する人気だったのですが。

封切り二日前。
全国96箇所に600個のスクリーンを持つロッテシネマは、上映を予定していた館をも取り消し、全国7箇所に配置したと通知。
「興業の可能性や映画の面白さを考慮してのこと」と広報は答えますが、チケット予約順位がこの映画よりも低い『フランケンシュタイン』には81館、9位の『レゴムービー』には72館を割り当てています。

ロッテシネマ同様、信じられない割り当てを見せたのが、メガボックス。
こちらは全国60箇所のうち3箇所のみ。当初の予定は15箇所だったのに。

そうくるというわけですよね。

サムスンは映画館の広告にもっとも費用を出している企業。
ロッテシネマはこの映画を潰して広告主を取ることにしたのでしょうし、メガボックスの株主には中央日報。中央日報はサムソン系列の新聞社です。

ちなみにもうひとつ分りやすい事実が。

昨年からサムソングループ内の遺産相続問題で骨肉の争いを繰り広げているCJ系列のCGVは、全国111箇所のうち40%にのぼる45箇所をこの映画に配置しました。
年間百億ウォン規模といわれるサムスンの映画館広告費が、今年からCGVには入らなくなっているそうで、骨肉の争い中のCGVはサムスンの顔色を伺う理由がもはやないからこその上映館数というわけです。

こうして書いていても、恥ずかしい。

本当に恥ずかしい。

サムスン電子の半導体工場に勤務していて白血病になったのはファン・ユミさんだけではなく、他にもたくさんの人たちが癌などの重い病気になって命を落としたり、闘病を強いられています。
なのにその非をいまだ認めない!

そうした事実を扱った映画をこんなふうによってたかって踏み潰そうとする人たちの前で観客が出来ることは、まずはこの映画を観に行くことなのでしょう。

そしてこの企業とどう向き合うか。次はそんなことが問われるのでしょうね。
このグループ企業のものを避けて生きるなんて不可能に近いのではないかと思える韓国の中で、それと意識せずともどんどん生活に入り込んでいるサムスン印の製品が溢れかえる中で、どんな意識的消費をするのか。

サムスン社員の友人たちの顔を浮かべると、複雑な思いが交差しますが。

手の平で空を覆い隠せないと、韓国では言います。

日本でも、驕るなんとかは久しからずと言いますしね。

ええ。そんなわけで。

まいりましょう。

メインの予告編です。



私には娘がひとりいます。
父親に苦労させまいと働きに出た、優しい娘です。
その娘が重い病気にかかったというのに、会社は責任がないと言います。

それで・・・胸の中に眠らせました

所見書を頂きたいんですが。

寝ていて腰が痛くなったら、寝具会社のせいだとでも?

記者会見、やっちゃいましょう!

話を聞いて下さい。誰も助けてくれないんです。

娘と約束したんです

これが事実なら、とんでもないことです。
国が判断を誤ったのですから、裁判所に是正してもらうための裁判です。

被害者らが毒性物質に持続的にさらされていた証拠です。

有害物質は検出されていないか、もしくは・・・。

より正確な判断を期するためには、疫学調査を実施する必要があります。

会社にはそのような義務はありません。

一体全体、公正ってなんですか?

情報提供者を探しています。

今すぐ片付けろ!

すまない。父さんはここまでみたいだ。

3億5千万ウォン差し上げます。

お金はただのお金よ!

もう一度家長としての役割を果たせるチャンスですよ。

証人を探してるんですよね?

原告側の証人はどうなりました?

申し訳ありません。連絡が途絶えました。

このままいったら、絶対に勝てません。

それでも私は諦めません

最後に、原告に発言の機会を与えます。

私は学もないですし物も知らないので、この裁判で何を言えばいいのかよく分りません。
でもね。私たちは負けませんよ。私は娘の父親ですから。

世界を泣かせた父の熱きもうひとつの約束
私たちが待ちわびた奇跡の実話
2月6日封切り

ちなみに、上映館を減らしたことに怒った人々の猛抗議を受け、CGVは45→49に、ロッテシネマは7→23に、メガボックスは3→29に上映館数を増やしました。

それでもたったの101館に過ぎない、信じがたいほど不当な扱いの中で出発した『もうひとつの約束』は、個人経営の映画館や、ロッテシネマの中でも委託経営になっている映画館などが上映を増やし、昨日の2月17日現在では169箇所のスクリーンで上映されており、こんなに酷い扱いを受けながらもボックスオフィスの観客動員数順位は5位。先週末だけで9万6千人の観客が足を運び、累積観客動員数は35万8685人となっています。

怒ってるんです、みんな。

がんばれ、『もうひとつの約束』!

映画をかけないなどというあからさまな真似をシネコンがしなければ見に行っていなかったかもしれない人まで、今は見にいってます。

上映館数が信じられないほど少ないので、観客動員数が伸びないのを理由にいつ打ち切られるかも分らない状況が気が気ではありませんが、どうか一日でも長くかかっていて欲しいと願うばかりです。