みなさま、こんにちは。

10月も末日となりました。
今日は来月11月13日から韓国で公開される話題の映画『カート』(邦題仮)について取り上げてみます。

『カート』は大手スーパーで契約社員として働いていた女性たちがある日突然解雇を通告され、会社の理不尽な不当解雇に抗議して闘う姿を描いた映画。


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今日、私は解雇された
なにも知らなかった彼らの熱い戦い

 

 

韓国の商業映画として初めて非正規雇用労働者の労働争議を全面に扱ったこの映画。
「異例」と言っていいでしょう。

この映画は人々の記憶に新しい、2007年5月にイーランドグループのスーパーチェーン店ホームエバーで起きた非正規雇用労働者の大量解雇と、それに抗した労働組合の長期ストライキ闘争をモチーフとしているだけに、人々は穏やかならぬ眼差しで映画の行く末を見守っているのではないかと思います。
韓国の労働人口のうち、既に非正規雇用者はその半数に達するというすさまじさ。この重苦しい映画はまさに「私の姿」、「明日はわが身」を描いてるんですよね。

彼女たちの職場は「ザ・マート」。
いつでも顧客のために笑顔を絶やさず、時に不当な要求にも頭を下げながら、一生懸命働いてきた店員たち。そんなある日、会社は正規雇用労働者である彼女らに突然解雇通知を突きつけます。

突然の解雇通告に衝撃を受けるのは、正職員になれるはずだったソニ(ヨム・ジョンア扮)を始め、シングルマザーのヘミ(ムン・ジョンヒ扮)、清掃員のスンレ(キム・ヨンエ扮)、純粋なオクスン(ファン・ジョンミン扮)、そして「88万ウォン世代」を代表する若者ミジン(チョン・ウヒ扮)らの面々。

年代は違えど、お小遣いではなく生活費を稼ぐために働いている共通項を持つ女性たち。
一方的に首を切られるわけにはいかない、それぞれの事情を抱えた彼女たちは、労働組合を結成しストライキに突入することで会社に抵抗を試みます。
解雇を撤回させ、職場に戻らせてくれるよう要求するのですが・・・・・・。といった内容です。

この映画には一家の大黒柱として働くソニの息子テヨン役として、EXOのD.O.ことト・ギョンスも登場。
ト・ギョンス君はアルバイト代を払ってもらえずひどい目に合わされる高校生を演じています。

 

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今日、私は解雇された
二人の母/ヨム・ジョンア

 

 

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今日、私は解雇された
シングルマザー/ムン・ジョンヒ

 

 

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今日、私は解雇された
正社員 代理職/キム・ガンウ

 

 

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今日、私は解雇された
人柄のいい主婦/ファン・ジョンミン

 

 

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今日、私は解雇された
88万ウォン世代/チョン・ウヒ

 

 

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今日、私は解雇された
掃除一筋20年/キム・ヨンエ

 

 

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今日、私は解雇された
高校生アルバイト/ト・ギョンス

 

 

この映画、釜山国際映画祭のオープンシネマ部門に招待され、10月7日に屋外劇場にて韓国内初披露をすませました。会場に詰め掛けた観客、実に4000人。埋め尽くされた座席から関心の高さが伺えますが、期待に応えてと言うべきか、映画の上映中もあちこちからすすり泣きが絶えなかったそう。

分かります。
韓国の「いま」があまりに生々しく描かれていて、予告を見るだけでも切なくて、腹が立って、いたたまれない気持ちになります。

この映画の公開日として選ばれた11月13日。

この日は韓国現代史の中で決して忘れてはならない、チョン・テイル(전태일)さんの命日です。

44年前の1970年11月13日、縫製工場で働いていたチョン・テイルさんは、「労働者は機械ではない! 勤労基準法を守れ!」と叫びながら、職場のあったソウルの平和市場で焼身自殺を遂げました。
時はパク・チョンヒ独裁政権下の時代。
年端も行かない少女たちが工場労働者として一日14時間も働かされている現実を前に、少女たちを監督する立場でお兄さん的存在だったチョン・テイルさんは、どうにかして労働環境を改善させようと独学で法律を学び、懸命に会社や管轄省庁に働きかけるものの、「勤労基準法」などは名ばかりの韓国社会は彼の要求を一顧だにせず。
眠らないよう薬まで使って働かされる幼い女子労働者たちへの非人間的な扱いをやめさせようとして彼が取った最後の手段が、焼身自殺でした。

チョン・テイルさんの死は、それまで当然のように踏みにじられていた韓国労働者たちの人権遵守や人間的な労働環境整備の問題を社会に投げかけ、その後の韓国労働運動の地平を切り開くきっかけとなりました。

この日を公開日に選んだ映画会社に拍手です。

 

そんなわけで、予告編、まいります。

 


「ハン・ソニさん。3ヵ月後、とうとう正社員になられます。一生懸命働けば、正社員になれます」

「母さんが新しいの買ってあげるよ、携帯。じきに正社員になって、お給料も上がるんだ」

「あんたがバイトしてるって言っちゃった」
「なんで言うんだよ」

「今日、時間ありますよね?二人とも、荷卸し手伝ってください」
「今日は用があって・・・」

「罰点が50超えたら反省文提出、お分かりですよね」

「はい、デザート」
「結婚資金は貯めないのかい?」

「ハンさん、ファイト!」

「疲れませんか?毎日そんなに延長して」
「平気ですよ。これもスーパーの仕事ですから」

会社がうまくいけば、私たちも良くなると思っていました

「大変!早く来てください!早く!」
「ここにいる人全員、働けなくなるのかい?」
「私、働かなきゃいけないんです!」
「これ、不当解雇ですよ。会社が一方的に契約違反したんです」
「なんだ、このおばさんたちは!」

今日私たちは解雇されました

「いくらしがない契約職だからって、これはないよ」
「他の手を打ったほうがいいと思います」
「ストライキです」
「ストライキ?」

「でも、交渉には行くべきじゃないですか?」
「しばらくしたら疲れていなくなるさ。
おばさんたちにやれることなんて、たかが知れてる」

「無実の人間を捕まえて、金持ちを守るのが警察なのか!」

「バイト代払って下さい」
「この、生意気な!」

「母さん、何日か帰って来れないと思う」

なにも知らなかった彼らの熱い戦い

「私たちは、大層なことを望んでいるわけではありません。
私たちの話を聞いて欲しいと言ってるんです」

「自分では夢にも思わなかったことを、あなたのおかげでやれたわ」

カート 11月 大公開

 

 

予告を見るだけで泣きそうになるんですから、実際に映画を観たら相当くるでしょうね。これはマスカラ塗らずに観に行かないと、終わったあとえらい顔に仕上がってそうです。

映画のもとになった実話の事件ですが、実はこれも時期的には『オフィスの女王/職場の神』でも再三語られていた、2007年7月に施行された派遣労働に関する法律、いわゆる“非正規職法”が関係しています。

新自由主義の波に乗って労働力をより一層切り売りさせられる法律が制定・施行された結果、社会に大量に吐き出された明日を保障されない不安定な雇用関係に苦しむ非正規職労働者たち。これを人事だと言える人たちが、どれだけいるでしょう。

働く人がいるからこそ物が作られ、サービスが提供され、人々の暮らしと社会が支えられていて、勿論企業の利益ももたらされているというのに、正社員じゃない人々の首は簡単に切ってもいいだなんて、どう考えたっておかしいです。そんな社会、ろくなことになりませんよ。人を大事にしない社会が繁栄するはずないんです。

圧倒的な現実を前にすると、映画がどんなに良くても大きな大きな既存の流れを変えることは出来ないんだろうなという諦念がこみ上げなくはないのですが、それでもこの映画、必ず観ようと思います。

ちなみにメディア向け試写会ではト・ギョンス君のファンクラブの方々が来訪者に飲み物やお持ちなどのプレゼントを配ったそうで、ト・ギョンス君の株がそんな意味でもうなぎのぼりなんだとか?!

先月終了したSBSのドラマ『大丈夫、愛だよ』でも素晴らしい演技力を見せていたト・ギョンス君、この映画でも共演した大先輩女優さんたちに大絶賛されていました。

意味のある映画に出て、演技力も認められる。
本人は勿論、応援するファンにとっても嬉しいことですよね。
愛するチョ・ジョンソクさんの映画を食わないで欲しい思いと、この映画がヒットして欲しい思いで、ちょっぴり複雑ではありますが(笑)、こちらも大ヒットするといいですね。