みなさま、こんにちは。

今年がどんどん終わっていく足音に追いかけられつつ、今日も先日観てきた映画『隠された時間』(邦題仮)の感想などアップしようと思います。

毎年年末になると、今年やり残したことがにわかに気になりだしてしまいます。

その結果としての、怒涛のアップ。(笑)

今日は、先日ソウルで観てきたカン・ドンウォンさん主演映画『가려진 시간/隠された時間』(邦題仮)の感想と、「ビハインド予告編」と名づけられた予告編をご紹介しようと思います。

メインの予告編およびポスターについては過去記事をご参照ください。
記事はコチラより。

さて、11月16日に公開されたこの映画。

前回の映画紹介記事でも触れたように、人々が映画を楽しむ気分に到底なれないようなとても厳しい時期に公開となってしまったのですが、出だしから観客動員が伸びなかったこの映画は最後まで挽回ならず、最終的なスコアは目を疑う数字となりました。

カン・ドンウォン主演映画ながら、観客総動員数、51万人。
まるで独立映画かと見紛うような数字です。
観客動員が予想より伸びなかったと言われたイ・ジェフンさん主演映画『探偵ホン・ギルドン:消えた村』のスコアを確認したところ143万人だったので、改めてあまりの客足の伸びなさに驚きました。
一観客に過ぎない私ですらショックなのですから、関係者、とりわけ監督と主演俳優の受けた衝撃は計り知れないでしょう。
この映画は損益分岐点が200万動員だったそうなので、4分の1しか及ばなかったことになります。

現在は新作映画『マスター』が好調にヒットを飛ばしているカン・ドンウォンさんなのですが、インタビューなどではやはりこの映画の想定外とも言える不振について触れられてしまうことが多く。
「自分としてはこれまでも大コケした映画がまったくなかったわけではないので慣れているが、監督は商業映画初チャレンジだったのでかなり落ち込んでいるし、なにより主役のウンス(シン・ウンス)がとても傷ついている」と心配しつつ伝えていました。

主役のスリンを演じたシン・ウンスさんは、この映画がスクリーンデビュー作。
目下中学2年生のシン・ウンスさんは、「物語を感じる深い瞳の持ち主」と絶賛され、一身に期待を集めていただけに、余計に落ち込んでしまっていそうですよね。

しかしこの映画を見た私としては断言しますが、この映画はそんな低い評価に甘んじなければならない映画ではないです。
カン・ドンウォンのネームバリューで日本も含めて9カ国で既に配給件が買われていることは前回もお伝えしましたが、韓国での興行成績に左右されることなく、予定通り無事日本にも入ってきてもらいたいと願っています。

映画はとある島に継父の仕事の都合で越してくることになった孤独な少女スリン(シン・ウンス扮)が、スリンに話しかけてくれたソンミン(イ・ヒョジェ扮)と打ち解けていく中で二人だけの秘密を大切に共有していっていた最中に起きた謎の爆発事故を主軸に、スリンの不思議な体験を描いていきます。
爆発事件で突如行方不明になってしまったソンミンやソンミンの友だち。スリンは彼らと共に現場にいた唯一の目撃者として島の人々や警察から注目を浴びることになるのですが、スリンがどれほど事実を話しても人々は信じてくれず。事件のほとぼりが冷めたころスリンの目の前にソンミンを名乗る青年が現れ・・・・・・といったもの。

この映画はどうやら意図的に「微妙な」関係の配置をしているようです。

たとえば思春期を迎えたスリンは、2年前に母が再婚した継父と二人暮らし。
女の子が継父と二人暮らしというのは、観客の心が落ち着かなくなる難しい設定ですよね。
本当にこういうご家庭はあるはずなので、実に勝手な「先入観」なのですが、その「先入観」が意図的に物語りに組み込まれています。

心の拠り所のない、孤独を抱えた女の子スリンが安心して心を開くことのできる唯一の友だち、ソンミン。
物語の展開上、この二人の信頼関係が非常に重要なのですが、スリンよりも背の低かったソンミンがある日突然身長185センチの青年になって現れたとしたら・・・・・・。
「心は小学6年生のまま」といわれても、二人が並ぶと絵面的にとても微妙になるんですよね。(笑)

こうした観客の側の「先入観」が、島民の偏見とまったく合致しているというところも、実は計算された演出なのでしょう。

日本にも入ってくることを期待してネタバレはしませんが、とにかく物悲しい、美しい映画でした。

映画を見た者としてなぜこの映画がそれほどまでに観客動員に失敗したのか考えてみた時に、思い浮かぶことがいくつかあるのですが、私としては感情の置き所を見出しづらい映画だったことが一番の要因なのかなと思っています。
途中でワーワー泣けるような、大衆迎合的映画ではないんですよね。映画らしい映画と言いますか。
スリンの孤独とソンミンの孤独に寄り添う、近づく、共感するという姿勢で臨まないと、感情移入のしどころがない映画に感じるのかもしれません、想像するに。

あとは、時空を超えたソンミンに「カン・ドンウォン」を見出そうとすると、これまた映画を見る目が曇るような気がします。(笑)
スリンの話をありのままに聞いてくれない、スリンからすれば独断と偏見に満ちた周囲の人間。そんな周囲の人間たちに苛立ちつつも、ある瞬間は観客自らも少女スリンと青年になったソンミンを「望ましからざる構図」に当てはめてみてしまっているという。そんなある種の現代病とも言える観客自らの偏見を気付かせる効果を監督が狙って作ったのだとしたら、素晴らしいというべきか、その素晴らしさによってスコアが伸びなかったんじゃというべきか。
いえ、最後は冗談ですが。(笑)

私自身は終わった後で涙がジワジワ止まりませんでした。
美しくも悲しいおとぎ話として、余韻を残すいい映画でした。

というわけで、この映画の悲しさと美しさを上手く表現した「ビハインド予告編」をご紹介します。

動画はSHOWBOXのyou tube公式アカウントより。



「君、1組に転向してきた子でしょ? 僕は2組のヨ・ソンミン」

「ソンミン! ヨ・ソンミン!」

「スリン。その時おかしなことが起きたんだ」

すべてが止まった世界に閉じ込められてしまったんだ・・・

「スリン。ここでは毎日同じ時間が流れてるんだ。
どんなに待っても時間が戻らない」

「僕だとわかってくれる人、いるだろうか。
そう思ったとき、君しか思い浮かばなかったんだ」

失踪した13歳の少年、大人になって戻る

「この話を君は信じてくれるだろうか」

隠された時間 11月16日ロードショー

・・・・・・悲しみが静かにぶり返します。(笑)

主演に大抜擢されたシン・ウンスさんの演技、とても良かったです。
「新人とは思えない」とはまさに彼女のための言葉。
孤独を抱えたスリンを表現する深い瞳。監督とカン・ドンウォンさんがこぞってそう評したわけが頷ける、カン・ドンウォンさんとも堂々と渡り合える演技でした。

また、上記の予告映像でお分かりかと思いますが、前評判どおり映像がとにかく凝っていて、細かいところまでいちいち綺麗でした。
きっとアーティスティックな監督さんなんでしょうね。
もう少し「下心」があれば、観客を途中おいおい泣かせる場面なども差し挟んで興行成績をアップさせようと目論んだでしょうに、そういうことを一切しなかったところを見るに、とても純粋な、表現したいものを作るタイプの監督さんのように思われます。

PR広告


この映画をとてもいい感想で見終えた私としては、オム・テファ監督には今回の興行成績にめげず、自分の作りたいものをこれからも貫いて欲しいです。
伝えたいメッセージが非常に明確である点も良かったので、才能ある監督の次回作にも是非期待したいと思います。

悲しみをたたえた優しい映画、『隠された時間』。

みなさまも是非機会があればご覧くださいませ。