みなさま、こんにちは。

桜の宿命というべきか、満開を迎えたと思ったら雨に散ってしまいました。
待つのは長く、眺めるには短い桜の花。
それでも満開が見れたので、よしとしましょうか。

さて、今日は昨年末に韓国で公開された映画『マスター』の予告編などを取り上げてみようと思います。

昨年12月21日、クリスマスを目前にして公開されたこの映画。

日本でも秋頃に『MASTER マスター』というタイトルで公開されることが、最近発表されましたね。
公開を待っていらしたファンのみなさまは、さぞやお喜びのことでしょう。

今日は、この映画のモデルとなっている一大詐欺事件について取り上げつつ、映画の予告編などをご紹介しようと思います。

映画『マスター』は「建国以来最大規模」とされる数兆ウォン単位の詐欺事件と、首謀者一味を追う知能犯罪捜査隊との攻防と追撃を描いた犯罪娯楽映画です。

巨大な詐欺を働く「ワンネットワーク」のボス、チン・ヒョンピル会長役にイ・ビョンホンさん、チン会長の部下で詐欺グループのIT部門統括者である頭脳明晰なプログラマー、パク・チャングン役にキム・ウビンさん、チン会長一味を追う警察の知能犯罪捜査班リーダー、キム・ジェミョン役にカン・ドンウォンさんが扮しています。
他に、キム・ジェミョンと共に知能犯罪捜査班で活躍する女性刑事シン・ジェンマ役にオム・ジウォンさん、詐欺グループの一味として暗躍する弁護士ファン・ミョンジュン役にオ・ダルスさん、チン会長の重要なパートナーで詐欺グループの広報を担当する通称「キムオンマ」役にチンギョンさんが出演しています。

以下が、ポスター。

ポスターはクリック2回で拡大します。


イ・ビョンホンにカン・ドンウォンにキム・ウビンというラインアップ。

実に豪華ですよね。

この豪華すぎるキャストが「一人もおろそかに出来ない」というプレッシャーになったのかは定かではありませんが、映画の上映時間は2時間23分と、尺は少し長めです。

長く感じたという人と長さを感じずに集中してみれたという人と、どうやら意見が分かれるようですが、私は後者でした。
やはり画面を引っ張る力が、カン・ドンウォンに・・・・・・。

と、えこひいきを炸裂させてみました。(笑)

この映画は主演3人の他にもキャラがかなり立っていて、特に詐欺グループ側と警察側に一人ずつ配置されている女性たちのキャラの立ちぶりが素晴らしいです。
悪女のチンギョンさんも、肝の据わった刑事役のオム・ジウォンさんも、どちらもカッコいいんです。

以下、いくつかスチール写真を貼っておきます。

人々の欲望に付け込むかたちで数万人の個人投資者から総額4兆ウォンにものぼる「資金」を集めるチン会長。
馬脚を現すことなく緻密に詐欺劇を働くために、彼は業務に関係するあらゆる公職者に賄賂を渡しています。
誰にいつどれくらい賄賂を渡したのかを綿密に記録してある帳簿が、チン会長の命綱。
もしもの時にはこれが武器になるので。

その大事な帳簿をチン会長から盗んでくるよう、室長のパク・チャングンを脅すキム・ジェミョン。
パク・チャングンは詐欺グループと警察との間で板ばさみになり・・・・・・。
といった内容が繰り広げられていくのですが、実はこの映画には、冒頭にも触れたとおりモデルとなっている実際の事件があります。

韓国で「檀君以来最大の詐欺事件」と呼ばれる、曺喜八(チョ・ヒパル)の巨額詐欺事件。

2004年11月頃、チョ・ヒパルが大丘(テグ)に本社を置くBMCという会社を設立し、「医療機器のリースで収益が上がる」などの触れ込みで投資者を募り、姿をくらます08年の10月までマルチ商法のかたちで約3万人から4兆ウォン(約4000億円)にも上る巨額のお金を騙し取ったのが、この詐欺事件のあらましです。
扱われた機器は骨盤矯正器具やマッサージチェアですが、最低投資額440万ウォンで器具を購入すれば月々リース代金を17万ウォン保障するとの言葉を信じ、年間収益率46%というありえない儲け話に多くの人が騙されてしまいました。

捜査の手が迫るとチョ・ヒパルは08年10月に電算システムをすべて破壊して行方をくらまし、同年12月に中国に密入国。警察は中国で朝鮮族に成りすましていることを把握していたのですが、そのままにしていたことが後に判明します。

2012年5月、警察はチョ・ヒパルが2011年12月に中国のチンタオで心筋梗塞により死亡していたと、突然発表。
警察は死亡の証拠として、遺族が撮影した葬儀の様子の動画や中国の病院で出された死亡診断書、火葬証明書をあげたのですが、警察が「死亡」と結論付けたチョ・ヒパルについて検察は生きている可能性を含めて再捜査するなど、その死を巡ってはいくつか疑わしい点がありました。

実はこの映画の監督チョ・ウィソクさんも、この「チョ・ヒパル死亡」報道を受けて俄然興味を抱き、この事件の資料を集め始めたのだそうです。
前作『監視者たち』以来、オリジナルの脚本を書きたいと思っていたチョ・ウィソク監督は、この映画の企画に3年半の年月を掛けたのだそう。

この事件に関しては、週刊誌「時事IN」が2012年1月16日付の記事で詳報しています。(「時事IN」該当記事へのリンクはコチラ
チョ・ヒパルにこれだけの規模の詐欺事件を可能とさせたのは、警察を賄賂漬けにして管理していたためと言えそうです。事実、「時事IN」によりますと、チョ・ヒパル事件を担当し、チョ・ヒパルをインターポールに指名手配した刑事が2009年に密入国した直後のチョ・ヒパルに中国まで会いに行っていたそうです。この刑事は2011年にはチョ・ヒパルからブランド物を大量に賄賂として受け取って帰国した際に税関職員に怪しまれ、通報されてブランド品を押収されましたが、チョ・ヒパルとの関係を問われることもなく市内の別の警察署で引き続き勤務しているというのですから、驚くほかありません。

逮捕に至った例も。
チョ・ヒパルの事務所に家宅捜索が入る前日にチョウ・ヒパルと会って9億ウォンの小切手を受け取った大丘警察庁の刑事。その後安東の警察署長に昇進したあと事件の統括責任者として古巣に栄転。9億ウォンの小切手を受け取った者を渡した側の捜査責任者にすえるのが適切とは到底思えませんが、「時事IN」の記者が9億ウォンの小切手について直接追求したところ、この人は「自分も被害者だ」と答えたそうです。この総警は警察内部に対しては9億ウォンについて「投資額を返してもらっただけだ」と主張したそうですが、ともあれこの総警は2012年8月に解任後、検察の再捜査を受け2015年9月に拘束され、2016年3月に懲役10年、罰金1500万ウォン、追徴金9億ウォンを宣告されています。(被告は控訴)

検察が捜査を再開する中、SBSの事件報道番組『それが知りたい』はチョ・ヒパルの死について目撃談が「死後」も相次いでいることから、遺族が提出した中国での死亡診断書も偽造の疑いがあることなどを突き止め、放送(2015年10月10日)。中国の公安当局もチョ・ヒパルとグループNO.2の姜太容(カン・テヨン)を追っていたようで、偶然の一致なのか放送翌日には財務担当者で中国に潜んでいたカン・テヨンが江蘇省無錫市で逮捕される事態に発展しました。
これで一気に真相に近づくかと思いきや、SBSの番組の中で叔父チョ・ヒパルが死んだのを直接見たと「証言」していた甥が、番組放送とカン・テヨンの身柄拘束からほどなく韓国内で謎の「自殺」を遂げるという、また不可解な事態発生。その死は睡眠薬と向精神薬の過剰服用による急性中毒死ということで処理されました。

その後、中国公安当局がチョ・ヒパルらしき人物を見つけたものの「別人」だったと発表したのを受け、韓国の捜査当局はチョ・ヒパルは死んだと結論付けたのですが、韓国に持ち帰られた遺骨を鑑定した国立科学捜査研究院が鑑定当時「本人確認不可」としたため、いまだ多くの疑惑を残しています。
ちなみに検察は、2014年7月から再捜査を行ったのですが、確たる証拠を提示しないまま2016年6月28日にチョ・ヒパルを死亡と断定、捜査を事実上打ち切りました。
2年に及ぶ再捜査では前職および現職の検事・警察が5名も裁判に掛けられる結果となったのですが、チョ・ヒパル事件を早期に手打ちにしたいなんらかの動機が捜査機関内部にあるのではないかと、被害者団体は疑っているそうです。

その稀代の詐欺事件を素材に、さらに想像力を膨らませてつくられたのが、この『マスター』というわけです。

熱意ある記者たちの取材結果と明るみになった事実を追うだけでも、あまりに仰天規模な事件ですよね。
映画監督が題材にしたいと思うに足る、まさに映画顔負けの現実。
そこに、現実には100%いないカン・ドンウォン的人物をはさませたのが、ファンタジーとして素晴らしいです。(笑)

映画の題材となった事件についてまとめてみましたが、とはいえこうしたことが細部にわたって一般に広く認識されているわけではありません。
事件が世間を騒がせたのも2008年と結構前のことなので、恐らく実際の事件が題材となっていることを知らずに、あるいは意識せずに見た人も大勢いたのではないでしょうか。
純粋にイ・ビョンホンさんとカン・ドンウォンさんとキム・ウビンさんが3TOPとなっている犯罪娯楽映画を、華麗な競演を期待して人々は観に行っていたように思います。

さて、映画の背景について説明したところで、いよいよ予告編をご紹介しましょう。

こちらは9月19日にCJ Entertainment Officialのyou tube公式アカウントで公開された、短い最初のバージョンの予告編です。



イ・ビョンホン

詐欺?
ただそれが兆単位になったら、なんて呼ぶと思う?

カン・ドンウォン

この事件を完璧に終わらせ、腐った頭を切り落とす

キム・ウビン

さて、レースを始めましょうか

建国以来最大の詐欺事件

最高のマスターたちが 互いを追う

マスター 2016.12

どうでもいいことですが、「檀君以来」が「建国以来」にマイナーチェンジされてます。(笑)

ちなみに「檀君」は朝鮮半島の建国神話です。

そしてもうひとつ、メイン予告編も。



詐欺?
はした金で遊ぶ奴らを、人は詐欺師と呼ぶ
ただそれが兆単位になったら、なんて呼ぶと思う?

建国以来最大の詐欺事件

4兆

チン・ヒョンピル
俺の手で手錠を掛ける

お前はワンネットワークの電算室長のパク・チャングン

その電算室の位置、チン・ヒョンピルのロビー帳簿
二つでいい

それだけ考えなさい

面白くなりそうだ

私たちから吸い上げようとしてるんじゃないの?

強気だこと

幹部の中に裏切り者がいるようだ

逃げる準備をしっかりしておけ

洗うの上手だから、お願いしないと

始めろ

パク・チャングンはどこに向かうかわからない

本物の詐欺師はここにいたんですね

俺を連れて行けば世の中大騒ぎになるぞ
耐えられるか?

最高のマスターたちが

あいつらは一線を越えた
俺は越えられないとでも?

互いに騙し 互いに追う

イ・ビョンホン
カン・ドンウォン
キム・ウビン

マスター

ご覧いただいたとおり、アクションシーンもちょっとあるのですが、この映画はアクションを前面に出したというよりは、人間模様により重点が置かれてます。

とにかくイ・ビョンホンさんの演技が、素晴らしい。
イ・ビョンホンさんと並んで演技をするのは、他の俳優に酷だなと感じさせるものがあります。
色々物議を醸しつつも、やっぱり演技はもう、文句の付けようがない方ですよね。(笑)

キム・ウビンさんは、私は想像以上に良かったです。どちらにも転びそうな飄々とした感じがよく出てました。
カン・ドンウォンさんは正義の側の役なので一番観客として感情移入しやすくはあるのですが、人となりのようなものがあまり描かれていないので、意外にどこか物足りない感じ。

監督としては、カン・ドンウォンさんは男性に好かれるキャラ設定にしたかったそうです。『監視者たち』でソル・ギョングさんが演じていたような、頭脳派リーダーで、決してエネルギーを爆発させたりしないキャラクター。

そう聞くと、物足りなかった意味がちょっと分かります。
ただ、かっこいいので。ええ、それは本当に。
「デートで絶対に見に行くな。終わったあと彼女がカン・ドンウォンの話しかしない」という悲しい忠告があがってしまうのが、監督の意図に係わらない民の声。どうしようもないです。(笑)

映画以上の現実が展開されている最中に公開されることになったこの映画。
世の中は「チェ・スンシルゲート」の只中なのに、何の因果か映画のキャッチフレーズが「建国以来最大のゲート」だったんですよね。

「なにが『最大規模のゲート』だ」と鼻で笑われそうな空気に、監督も俳優たちも罪もないのに萎縮。
この映画の競争作は『ローグワン/スターウォーズストーリー』やクリスマスイベントではなく、報道される現実の不正になってしまったのです。
「現実のほうがすごいよ」と思われてしまうのが容易に想像でき、そのため当初観客動員はさほど伸びないのではないかと思われていたのですが、蓋を開けてみれば714万人もの動員となりました。

確かに映画より目の前の現実のほうが「映画的」ではあるにせよ、やはりこれだけの人が観たというのは、映画が与えてくれた、映画ならではの楽しみがあったからに尽きると思います。
現実で果たされることのない「悪い奴を捕まえて欲しい」という心理が多分に作用したのも、間違いないでしょう。(笑)

印象に残る台詞も多く、このあたりも登場人物ひとりひとりのキャラクターを際立たせるのに非常に功を奏していました。一人につきひとつは印象的な台詞があるんですよね。
ただ、一番「いい役」のカン・ドンウォンさんの台詞が最も平板に感じられてしまったのが、少し残念です。周りのキャラが暑苦しいので、クールな役柄が負けたのかもしれません。

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観に行くつもりのみなさま、是非、秋の日本公開を楽しんでいらしてくださいませ。

偉大な傑作ではないかもしれませんが、十分楽しめると思います。

男性たちだけでなく女性たちもカッコイイのが、この映画の魅力を深めてもいます。