みなさま、こんにちは。

今日の関東地方は冷たい雨が一日中降っています。
みなさまも風邪にはお気をつけください。

今日はソウルで見つけた小さな「芸術の秋」について。

ちょうど2週間前の土曜日。
午後5時になっても外気温が25℃という、初夏のような陽気に恵まれたこの日、私は友人の家に遊びに行っていました。

友人一家の住むマンションの裏手には散歩にちょうど良い公園と小さな山があるのですが、毎度のように食べ過ぎたランチを消化すべく訪れてみたところ、芸術の秋らしく子どもの水彩画大会や音楽会など、大小の催し物が行われていました。

公園をぐるりと回って一通り見物し終えたところで折りよく女性二人の小さな音楽会が今まさに始まろうとしているのを見つけ、すかさずアリーナ席に陣取る私と友人。
伽耶琴(カヤグム)とピリとで構成された、二人きりの小さな“国楽(クガク)”演奏団です。

実はカヤグムを見ると、ちょっと胸が躍る私。
遠い昔、カヤグムを習っていたことがあるのです。

通常、カヤグムといえば、弦が12本あるもののことを指します。

ちなみに『ファンジニ』が名手とされている楽器はカヤグムと似ていますがコムンゴという楽器です。
コムンゴは弦が6本で、カヤグムは直接指で弦をはじいて音を奏でるのに対し、コムンゴの場合はスルテと呼ばれるボールペンほどの大きさの木の棒で弾いて音を奏でます。

コムンゴは「三国史記」によれば高句麗時代(BC37~668年)に作られた楽器である一方、カヤグムはその名のとおり伽耶の時代に伽耶国(紀元前後~562年)で作られた楽器である点など、この二つの類似した楽器は、弾き方だけでなく由来も異なります。

ちなみにこの日のカヤグム奏者が弾いていたのは、伝統的な12本の弦のものではなく、弦の数が2倍もある最近はやりの25本弦のものでした。

12本弦のものだと主旋律くらいしか奏でられないので、演奏の曲目がおのずと古典音楽に制限されますが、両手を駆使して音を奏でることで演奏をより派手に、音をより多重にし、現代的で多様な曲目が演奏できるということで、昨今ではこの弦数の多いカヤグムが韓国国楽界でも人気なのだと、国楽器奏者の夫を持つ友人が後日教えてくれました。
ちなみに北朝鮮では弦数が20本以上あるカヤグムのほうがスタンダードだということは、知る人ぞ知るレア情報(?)です。(笑)

さて、肝心の演奏内容についてもお話ししますね。

この日カヤグムを奏でていた女性は、演奏の合間に聴衆に向かって丁寧に楽器の説明をしてくれていました。
やはりどの国でも、自国の伝統文化に関心の強い人はあまり多くはありません。
彼女の説明に、いちいち聴衆が頷きます。
みな、初めて聞く話のようでした。

彼女はこの日、ナイロンの弦を張ってきていました。
本来は絹の糸なのですが、ナイロン製の弦を張ることで、ハープに近い、よく響く澄んだ高い音が出るのです。

こうした伝統楽器に多くの人が関心を持つようになり、演奏会に足を運んでくれるかどうかは、考えてみると彼女たち演奏家にとっては死活問題ですよね。
すばらしい演奏を聞かせてくれる彼女たちが、末永く大好きな楽器を奏で続けられますように。

カヤグムのことばかり書いていますが、もう一人の方はピリ(伝統的なたて笛)の奏者。
ピリはクラリネットのようにリードがついているのです。
実はクラリネットも吹いていたことのある私です。(笑)

このピリの音は、まさにコンナムこと『姫の男/王女の男』のOSTでさんざん聞いていた音色。
ピリの音を聞いただけで、心が一気にススンニムのもとに走りそうになりました。

韓国の古典音楽を奏でるより、大衆に聞き覚えのある音楽を奏でて身近に感じてもらおうとの主旨だったようで、彼女たちは次から次へと有名な映画音楽を聴かせてくれました。

2曲ほど軽い曲目が演奏された後、ピンクパンサーのテーマ、『禁じられた遊び』と続き、5曲目の『オーバー・ザ・レインボー』の辺りでちょっと私の涙腺が危ないことになってはいました。
『オーバー・ザ・レインボー』、大好きな曲なのです。
聴きなれた楽器の伴奏ではなく、ピリとカヤグムで聴く『オーバー・ザ・レインボー』。
どこか言い知れぬ哀愁が深いところで感じられ、喉の辺りがむずむずしかけていたのですが、とうとう止めを刺されたのが次に奏でられた「ロミオとジュリエットのテーマ」。

ロミオとジュリエットはいけません。
それでなくても、国楽器の音色でススンニムを思い出してしまっていたのに。(笑)

まずいとは思ったものの、案の定。演奏が始まって5秒後には涙腺決壊の事態に。
勿論、こんな場所で泣いているのは、私だけです。
泣いている私の傍を、時々奇声を上げて子どもが走り去ったりしています。

こんな時、いつも迷うのですが。
素直に泣くべきか。
泣くのを我慢して太ももをつねるか。

結果。太ももをつねりました。
友だちに涙を悟られなくて幸いでした。なぜ泣いているのかも説明できないので、ばれると面倒です。(笑)


かくして、心が洗われるような美しくも物悲しい秋の特別な演奏会が終わりました。

ビバ芸術。
この世は芸術があるがゆえに、さらに美しい。

私が感動したロミオとジュリエットのテーマ、演奏もちょうどこんな感じの音色でした。
you tubeの動画をアップしておきますね。

みなさまも、どうぞ素敵な芸術の秋を。