みなさま、こんにちは。

くるくる変わる天候が、春の訪れを感じさせる季節になりましたね。
とっても寒い日があっても、3月に入ってしまえばもう大丈夫と思えます。
このままゆっくりと春が広がっていきますように。

さて、今日は韓国で昨日3月3日から公開になり、日本でも3月19日から公開が予定されている映画『ミナリ』について取り上げてみようと思います。

 

「ミナリ」とは韓国語で「セリ」のこと。植物の「芹」です。

「ミナリはどこででもよく育つのよ」。
映画のそのセリフが象徴するのは、「移民者」。
この映画は、アメリカに移住した韓国人一家の奮闘を描いた作品なんです。

『ミナリ/MINARI』は1980年代にアメリカのアーカンソー州に移住したとある韓国人一家の物語を描いた作品で、実際に移民者であるアイザック・チョン(韓国名チョン・イサク)監督の自伝的映画です。
農業で成功する父親の後ろ姿を子どもたちに見せてやりたいと一念発起する父ジェイコブをコリア系韓国人のスティーブン・ヨンさん、ジェイコブの妻モニカをハン・イェリさん、モニカの母スンジャをユン・ヨジョンさんが演じています。
製作は、俳優ブラッド・ピットの主管する制作会社「Plan B Entertainment」、配給は「A24」。アカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』の制作会社、配給会社の強力タッグです。
そうなんです、この映画は韓国映画ではなく、米国人監督、米国の制作会社によるアメリカ映画なんです。

 

まずはポスターを。

 

 

 

 

 

 

 

全米公開時のポスターはこちら。

 

 

 

 

スティーブン・ヨンさんはユ・アインさん主演映画『バーニング』での活躍が記憶に新しいですよね。

このアメリカの独立系映画会社による小さな映画は昨年1月の第36回サンダンス映画祭で監督賞と審査委員大賞(つまりはグランプリ)の2冠を獲得する快挙をを成し遂げたのを皮切りに、現在まで世界のあらゆる映画祭で74個ものトロフィーを手にしており、「『パラサイト』の快挙、再現なるか?!」と映画界にどよめきを巻き起こしています。

最も注目されているのが、助演のユン・ヨジョンさん。
ユン・ヨジョンさんは昨日3日の「フェニックス映画批評家協会」による「助演女優賞」授与を最新データに、これまでに様々な映画賞で助演女優賞27冠に輝いています。

そして『ミナリ』の最新情報といえば、ゴールデン・グローブでの「外国語映画賞」受賞。
こちらは3月1日(現地時間2月28日)に発表されたばかり。
かの『パラサイト 半地下の家族』のゴールデン・グローブ「外国語映画賞」に引き続き、2年連続!

と言いたいところなのですが。

はい。

これは、アメリカの映画なんです。

なのに、なんで、「外国語映画賞」なの?

ゴールデン・グローブでは、作品賞候補にノミネートすらされませんでした。

それは、ゴールデン・グローブ賞の規定に「会話の50%以上が英語ではない場合は外国語映画とみなす」という規定があるから、なんだそうです。
しかしこの映画は、監督もアメリカ人、制作・配給もアメリカの会社。
クェンティン・タランティーノ監督の作品であれば、こういう扱いになっていないのです。
実際『イングロリアル・バスターズ』(2009年)は英語の比重が30%ほどだったのに脚本賞、監督賞にノミネートされ、ゴールデングローブで助演男優賞を受賞しています。

今回露呈したゴールデン・グローブ賞のダブルスタンダードが「時代遅れ」、「閉鎖性」、「人種差別的」と非難されても故なきことではないですね、こうなってしまうと。
ゴールデン・グローブを主管するハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)が2月3日(現地時間)、ノミネート作品を発表した際、同日のニューヨークタイムズは「米国人監督が演出し、米国の会社が制作した映画が外国語映画候補として競争する現実は馬鹿げている」と辛らつに批判しています。

「”韓国映画”だから当たり前に”外国語映画賞”」を授けたはずの去年のゴールデン・グローブ授賞式でのポン・ジュノ監督の受賞の辞が思い出されます。

「字幕の壁、壁というほどのこともないですね、1インチほどの壁を乗り越えられたら、皆さんはもっとたくさんの映画を楽しめます。世界のたくさんの監督たちと一緒にノミネートされたこと自体、既にとても光栄でした。私たちはただ一つの言語を使っていると思います。それは、“映画(シネマ)”です」。

 

痛烈でしたよね。(笑)
今回は、それこそ文句のつけようのない正真正銘のアメリカ映画だったのに「外国語映画賞」に振り分けてしまったので。
「僕たちが使っているのは、“映画”という言語一つじゃないのかい?」と呼びかけたポン・ジュノ監督のスピーチを関係者のみなさまに思い出して頂いて、と。

ええ、でもこの流れでね。ポン・ジュノ監督はアカデミー賞で4冠、オスカーを手にしちゃいましたから。『ミナリ』もどうなるか。ええ。(笑)

実際、『ミナリ』を特に「韓国人の映画」と思わず「私たちの物語」として捉えた米国の人たちがとても多いのだそうです。

考えてみれば当然で、米国は移民者による国。
新旧の移民者たちによる国です。
自分の親たち、祖父母たちを思い出さずにおれない、心の琴線に触れ、涙腺を刺激する自分の物語でもあると多くの人が共感したというところに、価値があるように思います。

ユン・ヨジョンさん演じるスンジャが特に注目されるのも、多くの人々の中にある「郷愁」、「懐かしさ」を体現しているからなのでしょう。
アメリカに移住した娘にサポートを求められ、韓国からやってきたおばあちゃん。
英語もできないし、他のアメリカ人のお友だちのおばあちゃんと全然違う。
アメリカ育ちの孫たちは韓国から来たおばあちゃんのイケてなさ、通じなさが疎ましくてたまらないわけです。
そんなおばあちゃんは、「ミナリ」、つまり芹のタネを韓国からどっさり持ってくるんですよね。
丈夫で、根を張り、どこでもよく育つから、と。

 

映画の予告編はこちらです。

 

デイビッド、見て!

車輪がついてる!

車輪?

ここはなに?

家だよ。新しく始めるって言っただろ。これがそう
パパは大きなガーデンを作るつもりだよ

主の家にようこそ
初めて来られた方はお立ち下さい。
美しいご家族ですね。歓迎します

お前のパパの農場はどうだ?農作物はちゃんと育ってるか?

はい

アメリカ人の子どもはおばあちゃんと同じ部屋を使うの嫌がるって言うけど

おばあちゃんと一緒は嫌だよ

この子は違うわ。韓国人だもの

おばあちゃんから韓国の匂いがするんだもん!

コラ!今なんていった?おばあちゃん匂いだって?

“温かい視線に込められた「家族」の意味 variety”

私たち、ここにいたらダメになるわ
子どもたちのためにも、もう一度考え直して

子どもたちにだって一度くらいは父親が何かを成し遂げるのを見せなきゃいけないだろ

“いま私たちに必要な映画 Los Angeles Times”

どけ、コイツめ!

おばあちゃんは本当のおばあちゃんじゃないみたい

どういうのがおばあちゃんみたいなの?

クッキーも作って、悪い言葉も言わないし、男物のパンツも履かない

“応援したくなる愛すべき家族 The Guardian”

水をどこからか引いてこなきゃ
土地が乾いたら農業もおしまいだ

“美しく、普遍的だ ポン・ジュノ監督”

結婚する時に言った言葉、覚えてる?
アメリカに行ってお互いを救おうって

覚えてる

見知らぬ土地に根を下ろした希望
ミナリ

チョン・イサク監督作品

アー・ユー・プリティーボーイ!プリティーボーイ!

プリティじゃない!グッドルッキング(カッコイイ)だ!

 

 

日本版の公式予告編も貼っておきますね。
こちらは上記のものより少し短いバージョンです。

 

 

この男の子がほんと、たまりませんね。(笑)

この子も韓国系アメリカ人で、アレン・キム君というお名前です。

予告編を見るだけでも既にこみ上げてくるものがあるこの映画。
スンジャを演じたユン・ヨジョンさんが移民者みんなの心の中にある「おばあちゃん」を呼び起こして余りある、そんな感じでしょうか。
まだアカデミー賞候補作品は発表されていませんが、早いうちから「オスカー助演女優賞最有力候補」と言われ続けているのも、「アメリカらしい」この映画の中でスンジャが果たした役割に多くの人が共感したからかもしれません。

さて、そんなユン・ヨジョンさん。

韓国のバラエティ番組の熱心な視聴者の皆さんお分かりですが、ユン・ヨジョンさんはアメリカで13年ほど結婚生活を送っていたことがあり、劇中のスンジャとは異なり英語での意思疎通に問題のない方です。
コロナ19が世界を席巻する前まで、各地の映画祭、試写会などに呼ばれ、監督、俳優ともども舞台上で観客とコミュニケーションをとる場面などもあったのですが、実はユン・ヨジョンさんが本領発揮する舞台はそこでした。

昨年1月、グランプリを取ることになったサンダンス映画祭での、上映後の「観客との対話」。

アイザック・チョン監督やスティーブン・ヨンさんは実際にアメリカ移民2世なので、この映画にかける思いは格別。スティーブン・ヨンさんはこの映画に出資もするほど主旨に共鳴し、「この映画を自分がやらなかったら誰がやるんだ」という思いで参加された経緯があるため、お二人はしんみりとした口調で真面目に、真摯に、時に目を潤ませながらこの映画が描きたかったものを観客に伝えようとしてくれているのですが、合間合間マイクを向けられるたびに笑いを取りに行くユン・ヨジョンさん。
アイザック・チョン監督がユン・ヨジョンさんを「韓国映画界のレジェンドのような方だ」と観客に紹介し、拍手と歓声が沸き起こると、照れ隠しなのか「レジェンドってことは、年取ってるってことよ」と英語で撃ち返し、しっとりしんみりの空気をジョークで打ち破って観客と壇上の関係者を笑いでリラックスさせてくれているのですが、話題になったのはその後に続いた発言。

客席から、「家族愛を作るために一緒に時間を過ごすなどされたのですか?」との質問が上がり、撮影の過程でみんなで一つになっていった、家族になっていったことを紹介するスティーブン・ヨンさん。
「みんなが運命的に出会い、美しい経験をしました」、「何より脚本がとても正直で、真実味があり、深く美しかったです」、「一緒に毎日食事をとる中で一つになっていきましたし、脚本を一緒に読むことで互いを知り、紐帯を得られました」と語る中で妻役のハン・イェリさんへの賛辞を送り。そのハン・イェリさんが気持ちに応え「韓国では一緒にご飯を食べたら家族になるというのですが、撮影の間中ずっと一緒にご飯を食べたんです。それで本当に家族になりました」と素敵な言葉を続けてくれたのですが、お母さん役のユン・ヨジョンさんに自然とマイクが渡った瞬間、しんみりを打ち破る思いがけないコメントが飛び出したんです。

「この人たちは真面目だけど、私はこんなに真面目じゃないんです」

えぇ?!(笑)

こちらの動画でご覧ください。
2020年1月、当日サンダンス映画祭の現場会場にいた方のyou tube動画です。
ユン・ヨジョンさんの発言箇所は動画10分過ぎから11分10秒まで。

 

ハン・イェリ:韓国では一緒にご飯を食べたら家族になるというのですが、撮影の間中ずっと一緒にご飯を食べたんです。それで本当に家族になりました。

ユン・ヨジョン:この人たちは真面目ですけど、私はこんなに真面目じゃないんです。
私は韓国でこの仕事(俳優)を長年やってきました。
私はこの映画をやりたくなかったんですよね。独立系映画と知ってましたから。それって要するに、あらゆる面で苦痛を強いられるということを意味してますから。
でも、映画はとてもいい仕上がりでした。

お金を節約するために、私たちはほぼ一緒に暮らすような状態でした。だから一緒にご飯を食べましたし、それで家族になったんです。
私は彼(スティーブン・ヨン)の韓国語を直してあげて、彼は私の英語を直してくれました。だから今はスンジャよりは英語ができますけど、全く英語を話す必要がなかったんですよね。
年をとった女優としては、とても記憶に残る瞬間でした。私はもう大変な仕事はしたくないんですよ。もう年とってますのでね。なんですけど。(監督を指し)
ですけど、監督が私に機会を与えてくださって、とても感謝しています。皆さんが私たちの映画を一緒に楽しんでくださって、とても嬉しいです。ありがとうございました。

 

爆笑!

ユン・ヨジョンさん、最高じゃないですか?
素敵だなぁ~。
まったく臆さず堂々と英語でスピーチして、観客をドッカンドッカン笑わせまでするなんて!
ピリ辛発言、突発的に毒舌を放つことでも知られたユン・ヨジョンさんですが、笑いを取り、みんなをリラックスさせるその余裕、人間観察力、場の掌握力に感嘆するばかりです。

オスカーの行方も気になるところですが、なによりも各国で共感を集めているこの映画、早く日本でも観たいですね。