みなさま、こんにちは。

気づけば11月も下旬に差し掛かり。
秋を飛ばして一気に冬が来たような寒さですね。
みなさまも風邪など召されませぬようお気を付けくださいませ。

さて今日は、明後日11月22日から公開される注目の韓国映画『ソウルの春(原題서울의 봄)』の予告編などをご紹介しようと思います。

「ソウルの春」と聞いて何のことかすぐピンときた方、韓国現代史に精通された方ですね。

「ソウルの春」とは、延べ19年ものあいだ軍部独裁を国民に強いた朴正煕(パク・チョンヒ)が側近の金載圭(キム・ジェギュ)に暗殺された1979年10月26日の翌日から1980年5月17日までの期間を指します。

 

 

 

東西冷戦のあおりを受け、朝鮮戦争で民族が南北に分断する状況下にあって、韓国は2度の軍事独裁政権に苦しんだのですが、最初の軍人出身の独裁者が朴正煕でした。自分に反対する人々に「アカ=共産主義者」のレッテルを貼って黙らせ、投獄や拷問など恐怖政治と不正選挙によって権力を延命してきた朴正煕でしたが、独裁者がいなくなったことでそれまで押さえつけられてきた人々の民主化への要求が一気に高まり、思想犯としてとらえられていた政治家、宗教者、学生も復権されるなどもあり、憲法を改正し新しい秩序をつくっていこうという気運がこの上なく高まっていたのが朴正煕暗殺後の状況でした。
その一方、空いた権力の座に座るべく即座に反乱を起こし、下克上に成功した全斗煥(チョン・ドゥファン)率いる「新軍部」勢力は、政治の実権も強奪し80年5月18日午前0時に韓国全土に非常戒厳令を拡大。直後、光州市民をターゲットとした虐殺が行われ、民主化への夢は踏みにじられることになったのですが、その「5.18光州民主抗争」の前日までを韓国では「ソウルの春」と呼びます。

 

以下の写真は韓国で新学年が始まる3月、大学内の民主化を求める学生たちの様子。

 

 

 

もう一つ、戒厳令撤廃を求める5月15日の学生たちのデモの様子。
この時点で戒厳令は済州島を除いた地域に出されており、5月15日に10万規模の学生による示威行動があったのですが、全斗煥は戒厳令を全国に拡大し、再び野党リーダーや学生運動のリーダー、宗教者たちを片っ端から捕らえ、無辜な光州の人々を虐殺し民主化運動を銃剣で踏みつぶすという極悪非道な手法で独裁的権力を手中にします。

 

 

 

ここでまた近代世界史に精通された方ならピンとくるかと思うのですが、「ソウルの春」というネーミング。
これは1968年の「プラハの春」からきています。
東西冷戦下、東側にあったチェコ(チェコスロヴァキア)で「人間の顔をした社会主義」を掲げるドゥプチェク書記長のもと民主化政策が推し進められようとしていたところ、それを快く思わないソ連がワルシャワ条約機構をして50万規模の軍事侵攻を行わせ、チェコの人々の民主政治への願いを大きく挫いた事件がありましたが、「ソウルの春」はチェコでの民主化を求めるムーブメントになぞらえています。

おぼろな記憶では朴正煕暗殺直後から「春」という形容を用いてこれから民主化に向かうという雰囲気があったように思うのですが、新聞などでも当時からその呼び名が使われていたかは確認できておりません。

さて、映画のタイトルが何を意味しているかを解説したところで、まずはポスターを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見てお分かりかと思いますが、ファン・ジョンミンさんが全斗煥を演じています。

もうこの姿がすごいですよね。
完全に軍事反乱の首謀者になり切っています。

 

 

 

 

4月、軍事反乱に続いて政治の実権まで強奪した時の全斗煥の様子です。

ここまで見た目を寄せてくるのかと、役者の本気に震えがきます。

 

映画『ソウルの春』は「12.12軍事反乱」と呼ばれる軍部内クーデターを起こした全斗煥一派と、かねてから全斗煥の率いる軍の秘密結社「ハナフェ」の動きをけん制し、排除を試みていた参謀総長のチョン・スンファ隊長、反乱を制圧すべく闘ったチャン・テワン首都警備司令官の、国の運命を変えた「9時間」を描いたもの。
全斗煥の蛮行は韓国ではつとに知られるところですが、これまで「12.12軍事反乱」そのものに焦点を当てた映画はなく、反逆者を鎮圧すべく闘った軍人たちについてもあまり知られてこなかったので、結末の分かっているドラマとは言え韓国でも大いに関心を集めています。

監督はチョン・ウソンさんのデビュー作である『ビート』(97年)、チョン・ウソンさんとイ・ジョンジェさんの現在も続く友情のきっかけとなった『太陽はない』(99年)、ファン・ジョンミンさんとチョン・ウソンさんの共演で話題となった『阿修羅』(2016年)のキム・ソンス監督。

ファン・ジョンミンとチョン・ウソンという韓国映画界を代表する二人以外にも、イ・ソンミンさん、パク・ヘジュンさん、キム・ソンギュンさんが主演に名を連ね、特別出演にチョン・マンシクさん、チョン・ヘインさん、イ・ジュンヒョクさんという豪華キャストぶり。

 

 

 

ちなみに、ファン・ジョンミンさんが全斗煥を演じていると書きましたが、役名は全斗煥(チョン・ドゥファン)ではなく、チョン・ドゥグァンです。
この映画は1979年12月12日の全斗煥による軍事反乱を描いているのですが、劇中名は実在の人物名とは異なっています。
以下、劇中でモチーフとなっている実在の人物を挙げてみます。

チョン・ウソン扮する首都警備司令官イ・テシンのモチーフとされる実在の人物は、チャン・テワン首都警備司令官。

 

 

 

 

 

イ・テシンの上官で、チョン・ドゥグァンとハナフェの排除を模索していたイ・ソンミン扮する参謀総長チョン・サンホのモチーフとされる実在の人物は、チョン・スンファン参謀総長。

 

 

 

 

 

・・・・・・なんか軍服のせいで、絵面が怖いですね。(笑)

 

ハナフェの一員で軍事反乱の主役の1人、全斗煥の後に軍服を脱いで大統領になった盧泰愚をモチーフにしたキャラクターも登場します。
パク・ヘジュン扮するノ・テゴン。

 

 

 

 

 

 

実際のハナフェの写真です。
前列左から4番目が盧泰愚、その隣が全斗煥。

改めて思うのは、軍人が下克上起こして軍を乗っ取った後、政治も掌握し、民主化を求める国民を銃剣で殺しているんですから、そんな輩たちがトップにいる組織、軍隊がまともなマインドを持っているはずがないですよね。
今もこういう流れを引いていると思うと、気が滅入ります。
社会ってほんとに一朝一夕で変わらない。

 

と、解説が長くなりましたが、ようやく予告編にまいりましょう。

まずは一番最初に公開された短い予告編。

 

1979年 12月12日
首都ソウル
軍事反乱発生
徹底的に隠されてきた9時間の物語
ソウルの春
11月22日劇場大公開

 

強烈じゃないですか?
「うわっ!」と声が上がっちゃいました。
これはすごいのくるぞ、と。

続けて公開されたのが、こちら。

 

<インサイダーズ内部者たち><KCIA 南山の部長たち>の制作会社作品
12.12軍事反乱発生
韓国の運命を変えた9時間
ファン・ジョンミン チョン・ウソン
ソウルの春 キム・ソンス監督作品
11月22日劇場大公開

 

セリフがないのにこの迫力。
鬼気迫ります。

そして、震えがくるメイン予告編。

 

先ほど朴大統領閣下が逝去されました
戒厳法に則り合同捜査本部長はここにおられるチョン・ドゥグァン保安司令官が務める予定です
人間という生き物はだな
強力な誰かが自分をリードしてくれることを望むものなんだ
あいつ王様にでもなったつもりか?
チョン・ドゥグァンをこのまま放置してはいけません
そんなことしたらクーデターだ
どうせなら革命というカッコいい単語を使ってくださいよ
<インサイダーズ内部者たち><KCIA 南山の部長たち>の制作会社作品
陸軍参謀総長として軍人イ・テサンに任務を任せます
これはこれはイ将軍
つまりこういう難しい時局にですね お互い味方になれれば
韓国陸軍はみな味方です
わぁ そうですか?
保安司令部の連中から攻撃されました
12月12日
保安司令部が?
ぐずぐずしてる場合じゃありません
初動対応が大事なのに!
韓国が
金日成を殴り殺しても降りてきません
今夜はここが最前線だ
一瞬にして崩れ去った
首都ソウル
列車が突き進んでるのに飛び降りる人などいますか?
軍事反乱発生
お前たちが今ソウルに進入してきたら
即座に戦争だ
やつらは止めるつもりがありません
そう射殺だ、射殺
今夜の勝負は誰が先にソウルに戦闘兵を進めるかにかかってる
どうなさるつもりですか?
チョン・ドゥグァンを捕らえにいかないと
徹底的に
反乱軍は聞け
隠されていた
闘争を解除し投降せよ
運命の9時間
撃てと言ってるだろう!
失敗すれば反逆 成功すれば革命じゃないですか!
ソウルの春 キム・ソンス監督作品
11月22日劇場大公開

 

 

いや~。
強烈です。
失敗すれば反逆、成功したら革命?
いや~。これは。見終えた後怒りの持って行き場がなさそうです。

全斗煥はのうのうと生きながらえて、最後まで軍事反乱についても光州市民虐殺についても一切反省することなく2021年11月23日に満90歳で死んだのですが、本当にこれも理不尽を絵に描いたようです。
はー、やるせな。
そして映画の公開日は、全斗煥が死んだ日の一日前。
狙ったのかどうかは分かりません。が。巷では「狙ったに違いない」の声多数。

試写の評判がすこぶる高いので、間違いなく今年イチオシの映画になりそうな予感がする『ソウルの春』。
内容的に、観終わって平常心を保てる自信がちょっとないですが、それでも早く話題の大作を観たいです。