みなさま、こんにちは。

今日は韓国で2月8日から公開中の映画『次のソヒ/다음 소희』(邦題仮,英題「Next Sohee」)の予告編を取り上げてみたいと思います。
22年5月、若手監督のデビュー作を中心に上映されるカンヌ国際映画祭「批評家週間」で閉幕作品として上映されたのを皮切りに、2022年10月開催の釜山国際映画祭に正式招待され、つづく22年11月の「東京フィルメックス」で審査員特別賞を受賞した作品です。

 

まずはポスター。

 

 

 

ご覧の通り、ペ・ドゥナさんが出演されてます。

先に言っておきますと、この映画はとても暗く重たいテーマを扱った映画です。
さらには実話に基づいたものなので、ドキュメンタリーの要素もあります。

監督は、今作が長編2作目となるチョン・ジュリ(정주리)監督。
前作『ドヒよ(도희야)』(邦題『私の少女』)も社会派の問題作。
AMAZONプライムで『私の少女』字幕版を見ることができるのですが、『私の少女』でペ・ドゥナさんは不遇な主人公に寄り添う警察官役を務めています。

チョン・ジュリ監督の長編1作目『私の少女』も2014年にカンヌ国際映画祭で『ある視点』部門に正式出品作品なのですが、チョン・ジュリ監督の長編1作目にも出演したペ・ドウナさんは、本作でも刑事役を務めています。

『ベイビー・ブローカー』もそうでしたが、ペ・ドゥナさんは何か事件の真相に迫る役柄がこのところ多いですよね。また、ペ・ドゥナさんほどのビッグネームがなければなかなか注目を浴びづらい小さな映画にも率先して出演されるところに、人となりも垣間見れ、「真相に迫る」という役柄に真実味と説得力がさらに加味されている気がします。

実際、ペ・ドゥナさんはシナリオを読み終えてすぐに出演を決意したとインタビュー番組で答えていました。

普段から子どもたちの問題、青少年や児童、幼児の問題に関心が強くあり、子どもが被害者になる事件に接するたびに一人憤っていたというペ・ドゥナさん。シナリオを読み、普段から自分が考えていたことが込められていたため、シナリオを閉じて5分で出演を決めたのだそうです。(インタビュー出典はコチラ

『次のソヒ』がどんな内容なのかは、「東京フィルメックス」審査員特別賞での受賞理由をご覧いただけば、察しが付くかと思います。

企業文化や資本主義が効率や経済的成果を追求する冷酷な世界では、人命やその他の価値がどのように犠牲になっているかが考察されることで、人を搾取するメカニズムに光が当てられている。
(出典リンクはコチラ

 

リンクを貼ったページの『Next Sohee(英題)』の部分をクリックされると、さらに詳しい映画の内容が監督のインタビューによって明かされています。ただし、監督インタビューはネタバレを含んでいますので、ご留意ください。

 

『次のソヒ』は卒業を控え、大企業のコールセンターに現場実習生として勤めることになった高校生のソヒ(キム・シウン扮)に起きた事と、事件を担当し疑問を抱くことになる刑事ユジン(ペ・ドゥナ扮)の物語を描いたもの。

監督が着想を得る元になった事件は、2017年1月に明るみになった出来事で、「全州コールセンター実習生事件」と呼ばれます。
事件当時は、事件についての報道をほとんど目にすることはありませんでした。

数か月後、地上波のSBSが2017年3月18日に「そこが知りたい」という番組で事件を取り上げたのですが、まさに朴槿恵の罷免が憲法裁判所で確定したばかりの頃だったため、そこでも大きな注目を浴びられず。
今回この小さな映画によってようやく韓国が抱える、みんなが見て見ぬふりをしている大きな問題の一つにスポットライトが当たることになりました。

 

歌手のIUさんも先日2月14日、試写会会場の写真に「今すぐ劇場で!」「次のソヒ」「★オススメ オススメ オススメ オスス★」などの文言を添えて自身のSNSにアップ。

 

 

 

『ベイビー・ブローカー』で共演した大先輩へのエールだけでない気がしますよね、IUさんがお勧めすると。
内容的にもきっと多くの人に見てもらいたい気持ちでいてくれてるような気がします。
ええ、気づけばIUちゃんえこひいき。(笑)

上映館も上映回数も多くないこの映画、2月8日の公開直後から映画評論家たちの熱い声援を浴びてクチコミで少しずつ観客動員を伸ばしているとはいえ、2月20日現在で6万9千人とまだ多くの人が見たとは言えない状況。こういう映画こそ50万人、100万人と足を運んでほしいです。

私も必ず見ようと思っているのですが、現実を引き写した重たいテーマなので、日本公開があるかどうかも気になるところです。
ただ、『私の少女』(原題:「ドヒよ」)もそうですが、必ずしも劇場にかからなくても映画を見れる手段が今は増えましたよね。
ペ・ドゥナさん主演なので、きっと日本でも観れる日があると信じつつ、予告編、まいります。

 

まずは30秒の短いバージョン。

 

第75回カンヌ映画祭 批評家週間閉幕作
第26回ファンタジア映画祭閉幕作 監督賞 観客賞
第23回東京フィルメックス映画祭 審査員特別賞
第42回アミアン国際映画祭 3冠王

就業教育に行ったはずが化粧なんかさせるんだよ

でももうわたし事務職社員だよ

<ドヒよ>チョン・ジュリ監督作品

全コールセンターをひっくるめてうちがビリです
特にそこのキム・ソヒさん

全世界を引きつけた強烈な話題作

つらい仕事をしている人は尊重されたらいいのに
そういう仕事をしているからともっと馬鹿にされる
誰も気を払わない

同じ空間で違う時間に直面した
次のソヒ
2月8日公開

 

既にこの短い予告編の時点できますよね。

もう少し長いメイン予告編も。

 

第75回カンヌ映画祭 批評家週間閉幕作
第26回ファンタジア映画祭閉幕作 監督賞 観客賞
第23回東京フィルメックス映画祭 審査員特別賞
第42回アミアン国際映画祭 3冠王

とうとううちも大企業に入れるってことだよ
下請けじゃなくて?
ここにサインして

はじめまして チーフのイ・ジュノです
あ ジウォンさん

ただ見てて
すぐ覚えます先輩

不動産屋かよ

就業教育に行ったのに化粧なんかさせてさ
でももうわたし事務職社員だよ

<ドヒよ>チョン・ジュリ監督作品

現場実習ってさ
初めは大学病院のインターンシップか何かのことかと思ったの
実践で技術を学んでこそ完成される教育ってものがあるから

全コールセンターをひっくるめてうちがビリです
特にそこのキム・ソヒさん

いっそやめるよ

わたし会社辞めちゃダメかな

つらい仕事をしている人は尊重されたらいいのに
そういう仕事をしているからともっと馬鹿にされる
誰も気を払わない
そして完全に独りぼっちになってしまう

全世界を引きつけた強烈な話題作
同じ空間で違う時間に直面した
次のソヒ
2月8日公開

 

他にも予告編があるのですが、ネタバレの少ないものを選びました。

予告編を見ただけで、この映画が何を取り扱っているか伝わってきて、いたたまれない気持ちになります。
特にペ・ドゥナさんの声で語られる「つらい仕事をしている人は尊重されたらいいのに。そういう仕事をしているからと、もっと馬鹿にされる。誰も気を払わない」というセリフ。

監督は初めからペ・ドゥナさんを念頭に置いてシナリオ書いたとのこと。
青少年を取り巻く社会のあり方に疑問を投げかけ鋭く切り込む監督と、ペ・ドゥナさんの日ごろの関心事がピッタリ重なり合って生み出された映画と言えそうです。

重たいテーマだからと多少身構えて観に行った人たちが、口をそろえて「とても良かった」と絶賛するこの映画。「感情を抑えて淡々と描き、緊張を一時も逃さず話が進むために、どんどん引き込まれる」というのが共通する感想だったりします。

また、作品を取り上げながら思い至るのは、韓国映画界の底力。

まだ観客数は多くないとはいえ、見て見ぬふりされている非人間的な労働環境に置かれる人々の問題、学校は企業の下請けなのかといった、大事だけれどもとっつきにくくて敷居の高いテーマを商業映画として作り、ワールドクラスの俳優ペ・ドゥナさんが二つ返事で出演を決められ、さらには完成度まで高いだなんて。映画産業に携わる方々の力量の高さと熱量を感じさせますよね。
いままた最悪におかしな政権が立ち上がり、軍事独裁政権の「銃」を「捜査権・起訴権」に置き換えて検察独裁政権が好き放題を働いていますが、悪しき力に折られることなく、今まで通り自由に映画やドラマが作られるようにと願わずにいられません。変な力に振り回されずに韓国映画の底力と魅力を引き続き発揮してほしいので。

大切なことを問いかける小さな作品『次のソヒ』が人々に知られ、さざ波が立ち、やがてうねりとなって一人でも多くの「次のソヒ」を防げる社会になりますように。