みなさま、こんにちは。

今日は1月12日に発表されたソ・テジ&Boysの代表曲“時代遺憾”のリマスターバージョンについて取り上げてみようと思います。
1月15日にK-POPのガールズグループのaespa(エスパ)がリメイクバージョンを出したことでも話題の曲です。

ソ・テジ&Boys(서태지와 아이들/ソテジワアイドゥル)と言えば、押しも押されもしない韓国音楽界のスーパースター。韓国社会にも大きな変化をもたらし、「文化大統領」とも称されたレジェンド級の3人組ヒップホップダンスグループです。

韓国では知らない人がいない大きな存在ですが、その活動期間は短く、92年のファーストアルバムから96年の4枚目アルバムを最後に解散。
まさに疾風怒濤のごとく駆け抜けました。

 

(左からヤン・ヒョンソク、ソ・テジ、イ・ジュノ)

 

ソ・テジ&Boysはデビュー当初から型破りでしたが、年長者がリーダーになるのが当たり前の韓国社会で一番年下(72年生まれ)のソ・テジさんがチームリーダーだったのもそうですし、今ではK-POPの大きな特徴でもあるラップを初めて歌ったのもソ・テジ&Boysでした。
2017年のソ・テジ&Boys結成25周年記念公演にBTSが招かれてパフォーマンスを行ったのも、ソ・テジが切り拓いた道を進み、さらに道をまた切り拓いた後輩という二つのレジェンドの出会いとして感動があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1992年3月にデビューし、1994年1月に解散・引退宣言。

4年間足らずの活動の中発表した正規アルバム4枚。

そのほとんどをリーダーのソ・テジさんが作詞・作曲・編曲・プロデュースまで行っています。

ダンスの構成を考えること以外はほぼすべてを担っていたと聞くだけで、どれだけ大変だったか少しは想像つきますよね。

そして、今日取り上げる “時代遺憾”は4枚目に収録されてあるのですが。

正確に言えば、収録されていません。

いえ、曲はあるのですが、歌詞がないんです。一言も。

もともと歌詞のある曲なのですが、上から改変を求められたことに抗議し、歌詞を全削除したという。

すごくないですか?!

 

ソ・テジ&Boys の”時代遺憾”は、社会に対する激しい怒りを込めた歌でした。
書いて字のごとく、「遺憾な時代である」ということを歌った歌。

この歌は、90年代半ば、韓国を震撼させた2つの大事故が背景にあります。94年の「聖水(ソンス)大橋崩落事故」と翌95年の「三豊(サンプン)百貨店崩落事故」。

1994年10月21日午前7時38分頃、漢江(ハンガン)にかかる「聖水大橋」の一部が突如崩落し、橋の上を走っていたバスや乗用車が落下。死者32名、負傷者17人を出す大惨事となりました。
原因は手抜き工事と管理責任者の怠慢。

 

 

 

1995年6月29日橋の崩落事故のショックがまだ癒えないというのに、今度は開業して6年余りしかたたない「三豊百貨店」が崩落。崩れ落ちるのに5分しかかからなかったというその恐怖の崩落事故は死者502名、行方不明者6名、負傷者937名を出す大惨事となりました。
こちらも手抜き工事と違法増築、その事実を知りながらも目をつぶった腐敗した当局の存在がありました。
セウォル号沈没事故と同様にこの時も崩落を察した経営陣はいち早く建物から出て難を逃れ、何も知らされなかった買い物客と従業員たちが犠牲になったのでした。

 

 

 

無責任な為政者と金の亡者たちのせいで、大勢の命が奪われたことへの怒りを歌に込めたソ・テジ。

その影響力の大きさとダイレクトな怒りの表現が政治批判につながるのを恐れ、韓国公演倫理委員会(公倫)は歌詞を事前審理、つまりは検閲にかけ、「一部の歌詞が過激で現実を否定的に描いている」との理由で不可判定を下し、歌詞を書き換えるように指示。これを不服としたソ・テジが、歌詞の修正に応じず、すべて消してしまったのです。

 

こちらが歌詞のない、4枚目アルバムに収録された『時代遺憾』。
公式アカウントのものではないので、リンク切れの際はお許しください。

 

 

 

韓国は当時、ようやく軍事独裁政権が終わり、初めての文民大統領である金泳三(キム・ヨンサム)政権時代でした。

二つの大きな事件が起きた頃である95年と言えば、驚異の視聴率から「帰宅時計」と呼ばれたSBSの大ヒットドラマ『砂時計』が1月から放送され、地上波で初めてドラマの中で80年5月光州民主化運動が描かれるなど、それまで恐怖政治で抑え込まれていた社会と歴史の事実を知りたいという欲求が大衆文化表現として爆発した時期でした。

人々が「ジャガイモが高くて買えない」と言っただけで「それは政府批判だ。さてはアカ(共産主義者)だな」と捕まえられた朴正煕の70年代から続いてきた映画や歌に対する検閲を、95年現在、時代の寵児であるソ・テジにも当てはめようとし、ソ・テジが強烈な反撃に出たため、『時代遺憾』の検閲問題は瞬く間に人々の焦眉の関心事になりました。

その後大統領に就任する、当時野党リーダーだった金大中(キム・デジュン)総裁もソ・テジを擁護したため、この問題は政治イシューとなり、ついには不当な「事前審議制度」が廃止に追い込まれました。

「事前審議制度」についてはソ・テジに先立って人気フォーク・デュオのチョン・テチュンさんが93年に「事前審査拒否」を宣言しており、公倫を通さずにアルバムを発売したことで政府に刑事告発され、アルバム回収や強制捜査などが行われていました。その土壌の上にソ・テジという時代のヒーローが加勢し、ようやく表現者たちの正当な抵抗に軍配が上がり、韓国歌謡界は大きな転換点を迎えることになったという経緯があります。

金大中大統領は、退任後ソ・テジさんを招き「一番会いたかったお客様がいらした。韓国音楽史に末永く名を遺す方だ」と激励。2009年8月に金大中前大統領が亡くなった時は、「平素から大衆文化と音楽を愛してくださった方でした。尊敬と悲しみの気持ちで弔意を表します」と記したソ・テジさんでした。

 

ちなみに「ソ・テジ」は芸名で、本名は「チョン・ヒョンチョル/정현철」。

ええ。全然違うんです。(笑)

初めて「ソテジワアイドゥル/ソ・テジ&Boys」という名前を耳にした大衆が、「ソ・テジ?なにその名前?だっさ!」と嘲笑の嵐だったのが、かぶりますよね、また防弾少年団と。

・・・・・・あ、いけない。きづくとバンタンの話をしよう、しようとする癖が。(笑)

 

ということで、見事歌詞の事前検閲制度をなくしたあと、『時代遺憾』は解散後の1996年6月にシングルとしてリリースされます。

 

 

 

1996年、為政者や資本家たちの人命軽視、安全軽視、無責任と身勝手さ、公の怠慢、金儲け主義が生んだ大きな悲劇を、歌で痛烈に皮肉り批判したソ・テジ&Boys。

あれから28年。
ソ・テジがまた、あの痛烈な批判を蘇らせました。

 

 

 

 

あの頃よりも良くなったかと思いきや、確実に29年前より最悪な為政者を迎えてしまった韓国社会。

この歌をaespaがリメイクした歌のオリジナルとして初めて接した人たちには、ソ・テジのこのタイミングでの復刻は、単なるaespaのリリースに合わせたファンのための小さなイベントに思えるでしょう。
実際にそうかもしれません。そうである可能性が高いでしょう。

でも、ソ・テジがこれを出した当時、韓国で一体何があったのかを知る大人たちは、それ以上の感慨を持たずにいられません。

私たちの社会は、あの頃よりも良くなったのか。
梨泰院に遊びに行っただけの韓国人、外国人あわせて159名もの若者たちをまた犠牲にするという、取り返しのつかないとんでもない人災を起こしても、誰ひとり責任を取らず、真相究明のための特別法案を拒否することに国民から委任された権力を使うようなろくでなしの為政者を、韓国社会はなぜまた生み出してしまったのか。
ソ・テジの頃に若者だった大人のひとりとして、本当に考えさせられます。
もしかしたらソ・テジさんも、そんな思いで今またこの曲を世に送り出したのかもしれないな、なんて想像力を逞しくしてしまいます。

 

というわけで、まいりましょう。

ソ・テジ&Boys が1月12日に再リリースした『時代遺憾 (2024 Remastered ver.)』。

ミュージックビデオはソ・テジのyou tube公式アカウントより。

 

時代遺憾(2024 Remastered Ver.)

待ち侘びてきたじゃないか 全ての人生を諦めさせる声を
この世を全て狂わせる出来事が起きそうだ

あいつらマジうるせえな
ただの高慢ちきのくせに
上っ面だけの嘘のおかげで
ツラの皮が引きつってやがる
年食った有識者とやらの大人たちは
可愛いお人形を連れて道をうろついてる
みんなが心の中で望んできた
その日がまさに今日になりそうだ

黒く染まった唇
正直者の時代は終わった
幾重もの虚飾の中から
今日は阿鼻叫喚が聞こえる

待ち侘びてきたじゃないか 全ての人生を諦めさせる声を
この世を全て狂わせる出来事が起きそうだ

折れちまったお前のその翼で
どれだけ飛べると思ってんだか
全てをひっくり返す新しい世界が来ますように

お前は心臓を燃やしてしまい
その鋭い足の爪を隠してる
取り返しのつかない過去と
全てが間違った方向に向かってるのに

黒く染まった唇
正直者の時代は終わった
幾重もの虚飾の中から
今日は阿鼻叫喚が聞こえる

待ち侘びてきたじゃないか 全ての人生を諦めさせる声を
この世を全て狂わせる出来事が起きそうだ

まさに今日こそ二つの月が浮かぶ夜だ
俺の胸に溜まった恨みを解き放てますように

今日だ

 

시대유감 (時代遺憾) (2024 Remastered Ver.)

왜 기다려 왔잖아 모든 삶을 포기하는 소리를
이 세상이 모두 미쳐버릴 일이 벌어질 것 같네

짜식들이 되게 시끄럽게 구네
그렇게 거만하기만 한 주제에
거짓된 너의 가식 때문에
너의 얼굴 가죽은 꿈틀거리고
나이든 유식한 어른들은
예쁜 인형을 들고 거릴
헤메 다니네
모두가 은근히 바라보고 있는
그런 날이 바로 오늘 올 것만 같아

검게 물든 입술
정직한 사람들의 시대는 갔어
숱한 가식 속에
오늘은 아우성을 들을 수 있어

왜 기다려 왔잖아 모든 삶을 포기하는 소리를
이 세상이 모두 미쳐버릴 일이 벌어질 것 같네

부러져 버린 너의 그런 날개로
너는 얼마나 날아갈 수 있다 생각하나
모두를 뒤집어 새로운 세상이 오길 바라네

너의 심장은 태워버리고
너의 그 날카로운 발톱들은 감추고
돌이킬 수 없는 과거와
모두가 잘못되어 가고 있는데

검게 물든 입술
정직한 사람들의 시대는 갔어
숱한 가식 속에
오늘은 아우성을 들을 수 있어

왜 기다려 왔잖아 모든 삶을 포기하는 소리를
이 세상이 모두 미쳐버릴 일이 벌어질 것 같네

바로 오늘이 두개의 달이 떠오르는 밤이야
내 가슴에 맺힌 한을 풀 수 있기를

오늘이야

 

素敵。

私、ソ・テジさん全盛の頃は全然好きなタイプの音楽じゃなかったんですが。(笑)

ちなみに公倫が問題にした歌詞は、「年食った有識者とやらの大人たちは可愛いお人形を連れて道をうろついてる/나이 든 유식한 어른들은
예쁜 인형을 들고 거리를 헤매 다니네」、「正直者の時代は終わった/정직한 사람들의 시대는 갔어」、「全てをひっくり返す新しい世界が来ますように/모두를 뒤집어 새로운 세상이 오길 바라네」だったそうです。

全然フツーのこと言ってますよね。
これを検閲で変えろと迫るなんて、ほんと、独裁政権時代の名残丸出しです。それを世論を味方につけて廃止させちゃったんですから、改めてソ・テジ、すごい!

せっかくなのでこちらも載せておきましょう。

1月15日に発表されたaespaのリメイクバージョン。

歌詞の改変はほとんどなく、MVもレトロな感じでオリジナルに寄せた雰囲気がいいです。ちなみにメンバーは出演していません。
歌詞の翻訳は日本語含め数か国語の字幕が選べます。

 

 

 

このyou tube動画の下のコメント欄に、ソ・テジのファンたちからのコメントが並んでいるんですよね。

aespaのオフィシャルMVなので当然コメント欄は英語のコメントで埋め尽くされているかと思いきや、目につくのは韓国語ばかり。そしてソ・テジファンの熱量の高さ!(笑)

ソ・テジファンたちがめちゃめちゃ喜んで真剣にコメントを寄せているので、その声を一部ご紹介したいと思います。

 

ソ・テジの歌が後輩たちのおかげで海外に広まっている。これは文句なしに賞賛されるべきこと/서태지의노래가 후배들덕에 해외로 퍼지고있다 이건 무조건 칭찬받을 일」

 

「ほんとに今の時代にピッタリの歌/정말 이 시대에 딱 맞는 노래」

 

「隊長の歌を、それも時代遺憾を、一体何考えてガールグループがリメイクなんてと思っていたけど、原曲を損なわず、それでいてaespaのカラーを適切に織り交ぜていて、期待以上の仕上がりですね。最高だ/대장의 곡을, 그것도 시대유감을 어쩌려고 걸그룹이 리메이크 하나 싶었는데 원곡을 훼손 시키지 않으면서 에스파의 색이 적절히 들어가서 기대 이상으로 좋게 나왔네유. 최고다」

 

「時代遺憾が初めて再リリースされた日、CDを買って胸をときめかせながら家に帰り歌を聞いた時に感じた感情が、また甦りました。あの頃が恋しいです/시대유감 처음 재발매 된날 cd사와서 설래는마음으로 집에와서 노래듣고 느꼈던 감정이 다시 떠오르네요.ㅠㅠ 그때가 참 그립네요 ㅠㅠ」

 

「このリメイクは原曲より秀でていることが意味を持つのではない。この歌が持つ意味を現在の私たちにもう一度思い起こさせてくれただけでも、aespaはアーティストとして社会に対し果たさなければならない役割を果たしたのだ/이 리메이크은 원곡보다 뛰어나서 의미를 가지는 것이 아니다. 이 노래가 가지는 의미를 현재 우리에게 다시 일깨워 주는 것만으로도 에스파는 아티스트로서 사회에 해야 할 역할을 해낸 것이다.」

 

「46歳のソ・テジファンです。今の世の中をつくったのは、私たち40代の責任もある。いま就職難や低出生率などから敗北主義に陥っている韓国の20代たちに、負けちゃだめだと応援しなければならないと思うし、今のaespaの時代遺憾は、個人的にはマスコミ権力と闘ったソ・テジの時代遺憾と同じくらい勇気あるリメイクだったと思う。拍手を送る。/46세 서태지 팬이다 지금의 세상을 만든건 우리 40대의 책임도있다. 지금 미취업 저출산등으로 패배주의에 빠져있는 대한민국 20대들에게 주저앉지말라고 응원해야하고 지금 에스파의 시대유감은 개인적으로 언론권력등과 싸운 서태지의 시대유감만큼 용기있는 리메이크라 생각한다. 박수를보낸다」

 

「いや~、あの当時若者たちに熱狂的な歓迎を受けた隊長様の歌が、30年近く経ってaespaに渡って、なんか歌詞もaespaっぽいし、歌もいいね/이야 그 당시 젊은 세대에게 광적으로 환영받던 대장님의 노래가 30년을 가까이 돌아 에스파한테 왔는데 뭔가 가사도 에스파스럽고 노래도 좋네.」

 

アツくないですか?(笑)

「隊長」というのは、ソ・テジファンのソ・テジさんに対する呼び名、愛称です。

韓国社会が見事におかしな方向、危ない方向に行っているのは普通の感覚を持った韓国市民ならみんな思っていることですが、92年、まだ軍事独裁政権の延長線みたいな雰囲気の時代に登場したソ・テジ&Boysのとんがり方が凄まじく、ソ・テジに10代の頃に影響を受けたファンたちはその後も一貫して層としてリベラルであるというのは、韓国社会ではよく言われることです。
一部抜粋してコメントをご紹介しましたが、ソ・テジファンの真摯さがうかがえますよね。気づいたら自分もいい年になって、若い世代や社会のありように対する責任を考えずにおれないという真面目なところなども。

でも実際はこの年代の人たちは、韓国でこの30年、ある意味最も苦労したと言えるかもしれない、98年IMF金融危機の頃に大学生だったり高校生だったりした層なので、親が失業して学費が払えなくなったり、親が多額の負債を背負わされることになったり、就職した会社が潰れたりで、経済危機の中本当に大変な思いをした世代でもあります。
自分たちもすごく苦労した世代なのに、今の20代を慮ってるのが、ソ・テジのファンってかっこいいなと思います。

・・・・・・なんか小学生の感想みたいになってませんよね?(笑)

 

過去と現在を結ぶ『時代遺憾』。
ソ・テジさんのリマスターとaespaのリメイクが、世代を超えた共通の言葉となり、疎通を生み出していて素敵です。

長くなりました。最後に、このコメントをご紹介して終わります。

「ソ・テジの時代遺憾とaespaの時代遺憾は、込めているメッセージと曲の解釈が異なると思う。ソ・テジの時代遺憾には既成世代に対する批判と変わらない時代に対する悲観が込められていたとしたら、aespaの時代遺憾は、不安な社会でも負けずに立ち上がり、夢と未来を応援する希望を込めていると思う。ソ・テジもこういう曲の解釈を新鮮に感じて、リメイクを許したんじゃないかな/서태지의 시대유감과 에스파의 시대유감은 담고 있는 메세지와 곡해석이 다른 것같음 서태지의 시대유감은 기성세대들에 대한 비판과 바뀌지 않는 시대에 대한 비관 담았다면 에스파의 시대유감은 불안한 사회에서도 딛고 일어나 꿈과 미래에 대해 응원하는 희망을 담은 것 같음 서태지도 이런 곡 해석이 신선하게 다가와서 리메이크를 허락해 주지 않았을까 함