みなさま、こんにちは。

12月も半ばとなりました。
その割に12月らしい寒さが感じられませんが。
エルニーニョ現象により今年の冬は暖冬だそうですね。
冬に暖かいのはありがたいですが、気候変動によるひずみがその分起こっているということなので、なんとも考えさせられます。

さて、今日はBTS全員入隊を受けての私の氷河期気分から、この曲をご紹介してみます。
キム・グァンソクさんの代表曲『二等兵の手紙』。

すみません、私ARMYなもので。
完全に自分のために書くこと請け合いです。
と先に謝っておきます。(笑)

もうこの感情のアップダウン。
厳しいです。(笑)
どうせ厳しいなら悲しみを吐き出しちゃおうって。
ええ、すみません本当に身勝手な動機で書きますが、ここ数日この歌が頭から離れないんです。ぐるぐるぐるぐる無限リピート。
はぁ。

BTSのファンからは、かねてより「BTSに似合わない歌TOP10」くらいな扱いなのが、今日ご紹介するシンガーソングライター、キム・グァンソクさんの『二等兵の手紙』だったりします。
それくらい暗くて古臭くてじっとりべったりしているということなのでしょうが、実際に曲自体がBTSのメンバーが生まれる前にできた曲でもあります。

 

 

『二等兵の手紙』は兵役に就くために頭を刈り訓練所に赴く青年の胸に去来する哀歓を歌った歌で、1990年発売当時、盧泰愚政権時代ですが、「歌があまりに暗すぎる」という理由で「放送禁止曲」にされたほど。

『二等兵の手紙』と言えばキム・グァンソクと言われるように、世間的にキム・グァンソクさんの作った曲だと思われがちなのですが、実はこの歌を最初に歌ったのはユン・ドヒョンさんなんですよね。作曲者は当時数え年20歳のユン・ドヒョンさんが活動していたバンド「チョンイヨン(凧)」のリーダー、キム・ヒョンソンさんという方。
そして発売当時に放送禁止曲にされたと書きましたが、最初にレコーディングしたのは伝説のロックバンド「トゥルグックァ(野菊)」解散後ソロで活動していたチョン・イングォンさんという。

 

 

 

この曲は今では韓国で知らない人がいないというくらいの超有名曲ですが、世に知られるまでいくつかの段階があったことが10年前、MBCのドキュメンタリースペシャル「二等兵の手紙は誰の歌?」で取り上げられていて、そこで明かされた事実がかなり面白いんです。
なぜチョン・イングォンさんの曲をキム・グァンソクさんが歌うようになったのかというと、番組によれば、『二等兵の手紙』を収録したアルバム『キョレの歌(*キョレは同族や同胞の意)』発売後、コンサートをやたらすっぽかす問題児なチョン・イングォンさんに業を煮やしたアルバム企画者が、代打でキム・グァンソクさんを指名したことがきっかけだったそう。
チョン・イングォンさんのコンサートで代打で『二等兵の手紙』を歌ったところ大きな反響があり、93年にリリースされたキム・グァンソクさんのアルバムに収録された経緯があるそうです。(MBCの該当映像リンクはコチラ

キム・グァンソクの代表曲『二等兵の手紙』を最初に歌ったのはメジャーデビュー前の19歳のユン・ドヒョンさんで、最初に音源化されたのはチョン・イングォンの歌唱っていう、ビッグネームの波状攻撃っぷりがすごいですよね。
私はユン・ドヒョンさんが好きだったのでよく音楽番組を見たりCDを聞いていましたが、このことを知る前までは時々ユン・ドヒョンさんが『二等兵の手紙』を歌ったりするのを見ると「あ、キム・グァンソクの歌歌ってる」と思ってました。
元祖とは知らず、申し訳ない限りです。(笑)

ただし!

キム・グァンソクが歌ったから有名になったわけでもないんです。
世に知られてはいなかったこの曲が、大衆的な名声を得たのは、キム・グァンソクさんが96年に亡くなってから4年後の2000年に公開された映画『共同警備区域 JSA』の挿入歌になってから。

 

 

 

 

・・・・・・ポスター見ただけで泣けてくるんですが。

この映画が公開される前年の1999年、韓国ではハン・ソッキュとキム・ユンジン主演映画『シュリ』が大ヒット。
『シュリ』は北朝鮮のスパイと、彼女を追う韓国情報部員との悲劇的な恋を描いた作品ですが、折しも韓国で初めてのリベラル政権、金大中大統領が誕生したばかりで、古い時代がようやく終わったという明るい気運が世の中にあふれていたのを思い出します。そんな中、互いに愛していても南北分断の狭間で引き裂かれなければならないという悲劇をエンターテイメント作品に昇華するという、以前なら考えられないことをやってのけ、かつ大ヒットしたということと、韓国産映画のポテンシャルを確認したという点から、韓国映画のメルクマール的作品と目されています。
「南北分断による離散家族の悲劇」という文脈は常にあったのですが、「恋をしてもいい相手なんだ!」ということを刻み付けたという意味で、人々の心に本当に大きなカルチャーショックと変化をもたらしたと言えるでしょう。それが可能な状況かは別として。

それでも『シュリ』は「人を情け容赦なく殺す北のスパイ、テロ集団」、みたいなありがちな設定だったので、人間的な共感を呼ぶには遠かったのですが、『共同警備区域 JSA』のメッセージ性はその次元を遥かに超えていて、このジャンルの作品としてもいまだにこれを超えるものはなかなかないのではないかと個人的には思っています。
あまりにも重すぎて見るのに勇気がいるのが難点ではありますが。

『共同警備区域 JSA』は、まさに兵役で最前線の南北共同警備区域に配属された青年スヒョク(イ・ビョンホン扮)が主人公で、特別な理由がない限り兵役に行かなければならない韓国の男子たちにはとても身近な素材。
地雷を踏んでしまい身動きできずにいたところを北の兵士オ・ギョンピル(ソン・ガンホ扮)らに助けられ、秘密の交流が始まり、友情が育まれていく過程がとても共感的に描かれるのですが、がゆえに本当に切ないんですよね。

『二等兵の手紙』は映画の中で挿入歌として使われるだけでなく、「(キム)グァンソクはなんであんなに早く死んじゃったんだ?」というソン・ガンホさんのセリフでも登場します。

映画『共同警備区域 JSA』は観客動員数が580万人ほどで、『シュリ』にも出演しているソン・ガンホさんを名実ともにトップスターに押し上げた作品です。
また、この作品で名声を手にしたパク・チャヌク監督でしたが、実はパク・チャヌク監督にとってはこの映画は企画もの。頼まれてメガホンをとった作品なんですよね。
パク・チャヌク監督作品のオリジナルカラーは、大衆受けよりも、マニアック。『共同警備区域 JSA』では制作会社がかなり演出に注文を付けたと言われています。

のちに明かされたところでは、パク・チャヌク監督の考えていたラストシーンは違うものだったそうです。
パク・チャヌク監督が考えていたラストは、5年後、民間人となったスヒョクが軍事教官となったギョンピルに会いに行くためナイロビ行きの飛行機に乗るというものだったそうです。
ハッピーエンドだけど、海外でしか会えないという悲劇を描きたかったと。
去年出版されたパク・チャヌク監督の散文・寄稿文をまとめた『パク・チャヌクのモンタージュ』という書籍にも掲載されているそうです。

映画としてはあのエンディングで正解だったと思いますが、あまりの悲しさにしばらく立ち直れないので、気持ちとしてはハッピーエンドを願ってしまいますね。

ちなみに公開当時、制作会社の社長とパク・チャヌク監督は、韓国内の極右勢力に告発され「国家保安法」(北朝鮮に利する行為を裁くことを旨とした刑法)で拘束されることも想定し、腹をくくっていたそうです。ところが9月の公開に先立ち、電撃的な南北首脳会談が6月にピョンヤンで開かれたことで和解ムードが一気に高まり、映画は大ヒットのうちに幕を下ろしました。とはいえ、のちの李明博・朴槿恵政権下では「JSAで北朝鮮を同志として描いた」とのことでパク・チャヌク監督はポン・ジュノ監督らと共にブラックリストに入れられてしまいましたが。

 

せっかくなので『共同警備区域 JSA』の予告編を貼っておきます。

公式の予告編なのですが、画質は荒いです。

 

 

 

こんなに?っていうくらいの画質の荒さですよね。
2000年ってそんなに大昔なんだ・・・・・・。(遠い目)

今もそうかは分からないのですが、この歌が休み時間などにラジオから兵舎で流れることがあるそうです。
そのたびにみんな涙を堪えるのに必死になると、まさにJSAの頃に兵役に行った人から20年前に聞きました。
その悲しさは、実際に兵役に行った者にしか分からないと思うと。
それを話しながら彼が涙目だったのを覚えています。

若者が、南も北も兵役に行かずに済む平和な朝鮮半島を築きたいと願いながら、愚かな為政者が選ばれるのを許し、またその道筋がかき消されてしまったことに、大人のひとりとして申し訳なく思わずにおれません。

と色々書きましたが。

ようやく本題にまいりましょう、『二等兵の手紙』。
「BTSに全然似合わない曲TOP10」で20代30代のARMYが選ぶぶっちぎりの1位になりそうな曲ですが。
40代以上の韓国ARMYの頭には、きっとこの歌が流れてると思います。ええ主観ですが、なにか?っていうか逆に何の歌が合います、この状況で?
と謎に半ギレしたところで。(笑)

 

you tubeキム・グァンソク公式アカウントより。

 

二等兵の手紙

家を出て列車に乗り訓練所に向かう日
両親に膝をついてお辞儀をし 門を出る時
胸の中には言い知れぬ名残惜しさが
ひと房の草も友の顔もすべてが新しく感じる
さあまた振り出しだ 若き日の人生よ

友よ軍隊に行ったら必ず手紙をおくれ
君たちとの楽しかった日々を忘れないよう
列車の出発が近づき握り合った手の熱さ
汽笛が遠ざかるごとに小さくなる姿
さあまた始まりだ 若き日の夢よ

短く刈られた髪が初めは笑えたけど
鏡に映った自分の姿に固まっていく心まで
裏山に登ればわが町が見えるかな
ラッパの音が静かに夜空に響き渡ったら
二等兵の手紙をきれいに畳んで送ろう
さあまた始めよう 若き日の夢よ

 

이등병의 편지

집 떠나와 열차 타고 훈련소로 가는 날
부모님께 큰절하고 대문 밖을 나설 때
가슴 속에 무엇인가 아쉬움이 남지만
풀 한 포기 친구 얼굴 모든 것이 새롭다
이제 다시 시작이다 젊은 날의 생이여

친구들아 군대 가면 편지 꼭 해다오
그대들과 즐거웠던 날들을 잊지 않게
열차 시간 다가올 때 두 손 잡던 뜨거움
기적 소리 멀어지면 작아지는 모습들
이제 다시 시작이다 젊은 날의 꿈이여

짧게 잘린 내 머리가 처음에는 우습다가
거울 속에 비친 내 모습이 굳어진다 마음까지
뒷동산에 올라서면 우리 마을 보일런지
나팔 소리 고요하게 밤하늘에 퍼지면
이등병의 편지 한 장 고이 접어 보내오
이제 다시 시작이다 젊은 날의 꿈이여

 

トナワ ヨチャ タゴ フリョンソロ カヌン ナ
プモニケ クンジョハゴ テムンバック ナソ
カスソゲ ムオシンガ アシウミ ナチマン
プランポギ チング オルグ モドゥンゴシ セロ
イジェ タシ シジャギダ チョムン ナレ センイヨ

チングドゥラ クンデ カミョン ピョンジ コッ ヘダオ
クデドゥグァ チュゴウォットン ナドゥル イッチアンケ
チャシガン タガオテ トゥソンジャトン トゥゴウ
キジョ ソリ モロジミョン チャガジヌン モストゥ
イジェ タシ シジャギダ チョムン ナレ クミヨ

チャケ チャリン ネ モリガ チョウメヌン ウスタガ
コウ ソゲ ピチン ネ モスビ クドジンダ マウカジ
ティットンサネ オラソミョン ウリ マウ ポイロンジ
ナパ ソリ コヨハゲ パハヌレ ポジミョン
イドゥンビョンエ ピョンジ ハンジャン コイ チョボ ポネオ
イジェ タシ シジャギダ チョムン ナレ クミヨ

 

涙。

悲しすぎますよねこの歌。
生まれ変わりでもしなきゃ兵役に行くことのない私が聞いてもこんなにくるのに、経験者たちが涙なしでは聞けないのは、まったくもって頷けます。

ほんとに。
毎度のことですが、どうか世界が平和になって欲しいと願う2023年の年の瀬です。