こんにちは。

今日は、『未生/ミセン』のOSTを取り上げてみます。

『未生』のOST第1弾として発表された「장미여관/チャンミ ヨグァン」が歌う「ロマン」(邦題仮)。

 

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強烈な初登場でしたよね。
第3話のラスト、宿敵チェ専務の車が目の前を過ぎていくのを呆然と見送るオ課長のあのシーンがオートマティックに浮かんできます。
あの前奏といい、ねっとりした演歌っぽい歌声といい、「一体これはなんだ?」と度肝を抜かれた方も結構いらしたのではないでしょうか。

「チャンミヨグァン」は「薔薇(の)旅館」を意味する5人編成のバンドなのですが、まるで日本の演歌のようだとの声、放送後に韓国のネット上でも上がっていました。

でも実はこの曲、ソ連時代の有名なシンガーであるウラジーミル・ヴィソツキーの歌「Кони привередливые/Koni Priveredlivie」が原曲になっているんです。意味は「気難しい馬」で合っているでしょうか? ロシア語が分からないのでちょっと正確なニュアンスが分かりかねますが。韓国では「野生の馬」となっているので、ここでは「野生の馬」と仮訳をつけておきます。

ウラジーミル・ヴィソツキーはソ連の詩人であり、俳優、シンガーソングライター。1938年にモスクワで生まれ、1980年に42歳の若さでなくなっています。

 

 

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先鋭に反体制を歌ったために、ソ連政府の厳しい統制下に置かれていたウラジーミル・ヴィソツキーは、生前一枚のレコードを出すことも許されませんでしたが、彼の歌声はカセットテープに吹き込まれ、繰り返しダビングされながら人々の間に広まっていったそうです。

ヴィソツキーが若くしてこの世を去った時、この「民衆の英雄」の死を知らせまいと当局はしたものの、小さく載った新聞記事を見た数十万とも言われる人々が、彼の死を悼むためモスクワでの葬儀に押し寄せたそう。

ヴィソツキーの死後、1985年に政権についたソ連最後の最高指導者ゴルバチョフは、ペレストロイカを進める中でタガンカ劇場中庭にヴィソツキーの像を建て、圧制に抵抗し自由を渇望したヴィソツキーに思いを寄せる人々の心を慰めもしました。

生前数多くの歌を残したヴィソツキー。「野生の馬」は彼の死後85年に公開された米映画『ホワイトナイツ/白夜』の中で使われたことで有名になりました。

悲壮なまでに情熱的に怒りと悲しみ、生と歌への渇望を歌い上げた「野生の馬」は、自らの制御しがたい熱情が死へと導くのを恐れつつ、それでも引きずられていくどうしようもなさを野生の馬に喩えたかのような歌です。

奈落に今にも落ちそうな崖の端をなぞりながら死へと急ぐかのように疾走する暴れ馬たちに引かれながら、自らの鎮まらぬ情熱を悲しくかみ締めるヴィソツキー。
まだ死にたくない、まだ最後まで歌い終えていないと訴えるヴィソツキー。でも馬たちは構うことなく崖を走り。
現れた天使が、まるで神との約束に遅れるのは許さないとばかりにがなり立てながら旅を急かす傍ら、ヴィソツキーはなおも馬に頼むのです。もう少しだけゆっくり走ってくれと、何度も。

「私はもう少し生きていたい。私はまだ歌を歌い終えていないのに」。

そんな歌へのオマージュだったんですね、『未生』のOST『ロマン』。

原曲についてドラマが触れたのは、第7話のシーンでした。
ヨンイをいじめるハ代理を足を引っ掛けて転ばせた後、ヨンイを励ますべくオ課長が会話を交わすのですが、そこでヨンイにロシア語をいつ学んだのかと尋ねつつ、オ課長が自分もロシアに2年駐在したことがあると明かす場面。

中学生の頃に見た映画『ホワイトナイツ/白夜』のミハイル・バリシニコフのダンスシーンで流れたウラジーミル・ヴィソツキーの歌に触発され、いつかはロシアに行きたいと思っていたと言いながら、オ課長が突然歌いだしましたよね。

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雄たけびのような歌声にOSTの前奏がかぶる、インパクトのあるシーンでした。

 

オ課長がドラマの中で触れていた『ホワイトナイツ/白夜』は、米ソ冷戦による対立が先鋭だった1985年に公開された米国映画です。

ミハイル・バリシニコフ演じる主人公ニコライは、米国に亡命したソ連の有名なバレエダンサー。日本に公演に向かう途中、飛行機故障でシベリアに不時着してしまい、KGBに囚われることになります。自分の引止め役を任されているのは、自分が8年前にソ連に置いてきた昔の恋人ガリーナ。ガリーナはニコライの亡命後、体制に協力することで高い地位を得ていました。KGBの意を汲み、豪華なキーロフ劇場でかつて彼が望んでいた演目を躍らせようとするガリーナですが、そのガリーナ自身も実はカセットテープで反体制と自由のシンボルであるヴィソツキーを今も聴いていることを、ニコライが知ることになり。

自由にしてくれ。自由に踊りたいんだ。小さな音でヴィソツキーを聞くのは嫌だと、元恋人に自分の苦しさと自由への渇望を踊りで訴えるニコライ。
結局その魂の踊りに心動かされたガリーナが、ニコライの再脱出に手を貸すという筋書きです。

米ソ冷戦下で作られただけに、内容そのものは80年代らしい政治的映画とも言えますが、ミハイル・バリシニコフ自身がソ連から実際に亡命した世界的なバレエダンサーであったため、目新しさのないテーマながら彼の半生をなぞるかのようなストーリーと高度なバレエの技巧に注目が集まりました。

こちらがキーロフ劇場で元恋人を前に踊るシーン。

このシーンで流れているのが、ヴィソツキーの歌「野生の馬」です。

身を縮こませ、つま先立ちで窮屈さを表現したかと思えば、力いっぱいに両手を広げ。その動きと肉体が言葉以上に雄弁に自由を希求して見せており、映画のハイライトともなっています。

 

 

 

 

映画でかかっていたライブ感漂う歌声が、当時ソ連の人々がダビングを繰り返して広めていた「野生の馬」のバージョンなのだそうですが、この楽曲にはアレンジが加えられた別バージョンもあります。

 

こちらが映画で使われていたものと近い音源のもの。

 

 

 

 

そして、『未生』がOSTとしてオマージュを捧げたのが、こちらのバージョンです。

 

 

 

祖国では歌手として公の活動を行えなかったヴィソツキーですが、ロシア系フランス人でフランス映画界の重鎮でもあった女優のマリナ・ヴラデイを妻としたことから、フランスに渡った際にパリでレコーディングをしたそうです。そのおかげで現在も彼の歌声が残されているのですが、推測するに上記のバージョンもその時のものでしょうか。

 

いずれにせよ。

ソ連の一時代を代表するウラジーミル・ヴィソツキーという英雄が歌った原曲をモチーフにするなんて、『未生』の音楽監督もかなりチャレンジングですよね。

 

歌っているのはチャンミヨグァン。

 

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この方が、ボーカルのユク・チュンワンさん。

 

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ユーモラスすぎやしませんか。
しかもあなたはその貫禄で1980年生まれって。

って、そこはあえて取り上げなくてもですよね。
失礼いたしました。(笑)

チャンミヨグァンの方々、結構人気ですよね。
音楽が謎過ぎるのと、謎なんだけどすごく上手いっていう、不思議な魅力。
謎というより「味がある」といったほうが正解でしょうか。

元々はインディーズで活動していた方々だそうですが、KBS2の番組「TOPバンド2」での活躍で人々に存在を知られ、MBCの「無限に挑戦」で大衆からの認知を確たるものにしたとのこと。
変な歌、もとい、味のある歌を歌っていらっしゃるので、機会があれば今度取り上げてみようと思います。

ということで、ウラジーミル・ヴィソツキーを原曲とした『未生』のOST『ロマン』、まいりましょう。

 

로망

술 한잔의 로망
나를 끌어 당기는 불빛들은 아스라이

약해도 사나이 혼자 가는 인생
바람 앞에 때론 넘어져

서러웠었던 젊은 나날
애처롭던 꿈은 다 부서져
주워 담을 수는 없었다
무릎 꿇어도 무릎 꿇어도

결국 내가 풀어야 할 퍼즐
결국 내가 넘어야 할 산
청춘이란 찬란함도 꺼졌다

뒤 돌아보니 상처투성이
못난 내가 울고 있네
또 다시 해가 뜸을
괴롭도록 슬퍼해

이 약한 내 영혼을
나약한 내 가슴을
그 누구도 동정 하지 마라
운명을 바꿀 테니

그 남자의 로망
푸른 새벽이 와도
잠 못 드는 달빛 같다

차가운 현실에 싹 튼 꽃이라고
함부로 꺾으려 마라

네게 바쳤던 나의 순정
들어 줄 이 하나 없어도
너는 알았으면 좋겠다
낙엽이 져도 눈이 내려도

결국 내가 불러야 할 노래
결국 내가 지워야 할 너
사랑이란 네 이름도 바랜다

뒤 돌아보니 상처투성이
못난 내가 울고 있네
또 다시 해가 뜸을
괴롭도록 슬퍼해

이 약한 내 영혼을
나약한 내 가슴을
그 누구도 동정 하지 마라
운명을 바꿀 테니

一杯の酒のロマン
俺を引き寄せる光は 遠くかすむ

弱かろうとも 男は一人 人生を行く
風を前に 時に倒れながら

恨めしくも悲しき若い日々
憐れな夢は みな砕け散り
拾い集めることは出来なかった
跪(ひざまず)き どれほど跪いても

結局 俺が解かなければならないパズル
結局 俺が越えなければならない山なんだ
青春という煌きも消えた

振り返ってみれば傷だらけ
出来損ないの俺が泣いている
また日が昇りくるのを
苦しくなるほどに悲しんでいる

この弱き俺の魂を
軟弱なこの心を
誰も同情などするな
運命を変えてやるから

その男のロマン
蒼い夜明けが訪れても
眠りにつけぬ月明かりのよう

冷たい現実の中で咲いた花だからと
むげに摘み取ろうとするな

お前に捧げた俺の純情
誰一人 耳を傾けてくれなくても
お前は知っていて欲しい
枯れ葉が散り 雪が降ろうと

つまりは俺が歌わなければならない歌
つまりは俺が忘れ去るべきは お前
愛というその名も色褪せてゆく

振り返ってみれば傷だらけ
出来損ないの俺が泣いている
また日が昇りくるのを
苦しくなるほどに悲しんでいる

この弱き俺の魂を
軟弱なこの心を
誰も同情などするな
運命を変えてやるから

 

これはこれで十分悲壮な上、ドラマとのシンクロ度もバッチリなのですが、いかんせん原曲が歌っている内容と背景がキビシすぎるので、原曲を知ってしまうと「なんだ、こんなことで悩んでるのか」と思ってしまうというこのジレンマ。そこまでは、音楽監督はお考えにならなかったのでしょうか。

などと言うと身も蓋もないですね。すみません。(笑)

しかしながらこの演歌っぽい曲が聴けば聴くほどハマってきて、原曲のハクとも相まってさらによく思えてくるこの不思議。
加えてドラマの中でのオ課長改めオ次長の活躍ぶり。
これが流れてくると、「ああ、闘いだ」とオートマティックに緊張が走り、こちらまでなんとなく気分は戦闘モードになったりして。
刷り込み効果、抜群です。
しかも、強いほうに向かっていけば、弱いほうが負けると相場は決まっているので、負けを覚悟で挑まなければならない悲壮さが妙に伝わってくる歌詞になっていたりするので。

負けてない。

全然原曲に負けてない。

と、ひいきの引き倒ししてみました。(笑)

ただ、あれですね。原曲の渋さを知ってしまったおかげで、一点ドラマで解せない点が出てきてしまいました。オ課長がヴィソツキーの歌を歌いだせるほどに傾倒している割りに、映画を「ロシア映画」と間違えるところ。
内容からして間違えようがないのに、どうしてあそこだけキャラに矛盾をきたす台詞を挟んだんでしょう。惜しいなぁ。

そんなこんなを言いつつも、すっかり気に入っています、『ロマン』。これがかかると異常に盛り上がる自分になってしまったので、この後の展開でもこの曲がかかるのを期待しつつ。

ちなみにこの「野生の馬」、日本では「馬」というタイトルで呼ばれているようなのですが、映画『ホワイトナイツ』のサントラには含まれていないそうです。
この曲が含まれているアルバムは、日本では発売されなかったそうなので、you tubeに残されている音源は貴重なものかもしれません。

 

 

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